通常、発作止めとは、この種類の薬をさします。気管支平滑筋に直接作用して発作で狭くなった気管支を広げ、呼吸を楽にします。作用から気管支拡張薬とも呼ばれます。
正式にはβ2(ベータツー)アドレナリン受容体刺激薬といいます。アドレナリンというホルモンの作用のうちの1つ、気管支拡張作用を薬にしたものです。実際には他の作用から完全に分離できないため、気管支拡張以外の作用=副作用が起こることがあります。
一般に効果は30分から1時間ぐらいで現われ、数時間持続します。後から開発されたものほど、効果が長く心臓への負担が少ないとされています。長期間使うことで、徐々にききめが弱まる可能性があります。また、β2刺激薬の吸入薬は長期間、定期的に使うことで、むしろ気道を過敏にすると考えられます。吸入ステロイド薬やDSCG(インタール)など、気道の炎症を押さえる長期管理薬を併用することで、この過敏性を押さえられるという報告も多く見られます。内服薬に関しては、作用の減弱や定期使用の問題は、まだ明らかになっていません。
発作時のみの服用が原則です。内服なら1回のみから1日2から3回を1週間程度、吸入は1日2、3回まで。副作用を防ぐため、使用後4から6時間程度は間隔をあける必要があります。使用後、3、4時間以内に再び苦しくなるなど、繰り返し、発作止めの吸入薬が必要な場合は速やかに病院を受診してください。
1980年ごろ、欧米を中心に日本でも行われていたMDIを利用したβ2刺激薬の定期吸入療法(レギュラーユース)は気道の過敏性を亢進させる危険があるため、現在は、ほとんど行われていません。
β2刺激薬+DSCG(インタール)の定期吸入療法は、ネブライザーを使用し、両者を混ぜたものを1日2または3回吸入します。小児の喘息に予防法として効果をあげています。このやり方では気道の過敏性亢進は見られていませんが、かならず医師の指導をうけて行う必要があります。
運動誘発喘息の予防として、β2刺激剤の吸入を行う場合、メプチンやサルタノールなどを用います。運動の15分から30分前に1から2吸入使います。動悸などの副作用が出る人には、この予防法は向きません。あらかじめ、医師とよく相談してからおこないましょう。
副作用が出るかどうかには、かなり個人差があります。薬の種類によっても差がでます。
一般的には後から作られた新しいβ2刺激薬ほど心臓への副作用は少なくなります。ただし、使いすぎればこの限りではありません。
循環器系 (心臓、血管) |
動悸、顔のほてり、頻脈、胸痛、不整脈、血圧上昇 |
神経系 | 頭痛、めまい、不眠、興奮、耳鳴り、手指の震え、しびれ、手足・指がつる |
消化器系 (胃腸) |
口が乾く、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲不振、胃部不快感、便秘 |
その他 まれなもの |
過敏症(発疹、かゆみなど)、倦怠感、むくみ |
使用中のβ2刺激薬で、上記の副作用が疑わしい症状のある人は、医師に相談してください。喘息のコントロールの最終目標は発作も薬の副作用もゼロにすることです。
内服を止めれば、副作用は消えますが、まったく使わないわけにもいきません。対策としては、減量する、別のβ2刺激薬に変更する、吸入剤なら使用後のうがいやスペーサーを使うことがあげられます。
また、手の震えや胃部不快感など使用しているうちに慣れておきなくなる副作用もあります。喘息が重症になると気道もたいへん過敏となり、ちょっとした刺激でも発作を起こす誘因となります。発作を押さえるβ2刺激薬の吸入でも、逆に発作を悪化させることもあるぐらいです。
喘息死との関連で、現在騒がれているフェノテロール(ベロテック)もこのβ2刺激薬に含まれます。他の心臓への負担が比較的少ないβ2刺激薬でも、過剰に何回も連日使用すれば、やはり心臓への影響があります。
以下の薬と併用することで、作用が増強し副作用が出やすくなります。
併用する場合は、必ず主治医と相談してください。
- サフラ(塩酸サフラジン) >抗うつ薬の1種
- チラーヂンS(レボチロキシンナトリウム)、チロナミン、サイロニン(リオチロニンナトリウム) >甲状腺ホルモン製剤
不整脈、心停止などの激しい副作用が出るため、強心剤のカテコラミン類(プロタノールS錠以外は注射薬)とは併用できません。強心薬または気管支拡張薬のイソプレナリン(アスプールなど)も同様です。
以下の病気を合併している人は、薬の副作用が強く出る可能性がありますので、使用する場合は主治医とよく相談してからにしてください。
甲状腺機能亢進症、高血圧、心疾患、糖尿病、緑内障、前立腺肥大症
最近、開発された「ホクナリンテープ」は、皮膚に張りつける全く新しいタイプのβ2刺激薬です。主成分は塩酸ツルブテロールといって、以前からある薬ですが、皮膚から非常にゆっくりと薬が吸収されるため、その効果は12時間以上も持続します。
効き始めはゆっくりなので、発作止めというよりは、主に夜に張って、早朝の発作を予防する目的で使います。主成分は他の気管支拡張薬と同じですから、吸入や内服などの他の気管支拡張薬と同時に使うと、効きすぎて副作用が現れる可能性があります。使い分けは主治医によく相談してください。
皮膚から吸収されるため、吐き気などの症状は少ないかわりに薬を張った皮膚がかぶれるなどの皮膚の症状が出る場合があります。ご注意下さい。
これも最近発売された、新しいβ2刺激薬で、ドライパウダー(粉)を専用の吸入器で吸い込んで使用します。効果が12時間と長いことが特徴で1日2回服用すれば、1日中効き目が持続します。
このお薬も発作時の救急治療薬というよりは、毎日使って、発作を抑えつづける、長期管理薬に近いお薬です。ただし、単独では気管支の炎症を抑える本来の長期管理薬の効果がないため、かならず吸入ステロイド薬などの抗炎症作用のあるお薬と併用するのが原則です。
β2刺激薬は、喘息の発作用薬として、現在一番よく使われるお薬ですが、剤形がとても多く、種類が同じなのに、見た目がまったく違うこともめずらしくありません。知らずに、併用してしまうことがないよう、十分気をつけてください。
悪い例 「ホクナリンテープを貼っていたが、発作がひどくなったのでベネトリンの吸入をした。それでもよくならないので、メプチンを飲んだ。」
上記の場合、それぞれの薬の量が正しくても、ほとんど同じ気管支拡張薬を3回つづけて使ったことになり、副作用がでる危険が高まります。