父不見山は、尾崎喜八の文章であまりにも有名なので、常に頭の片隅にあったのですが、いろいろインターネットで調べてみると、冬でも問題無く歩けそうだったので、決めてしまいました。今週は朝早く目が覚めたので、そのまま山に直行です。
今回は、珍しく早朝4時過ぎに千葉を出発しました。スキー客で暗いうちから渋滞の出始めている関越道を鶴ヶ島で降りて、4日前の四阿屋山の時と同じ道を辿ります。小鹿野から吉田町方面に進み、合角ダムの横を通って、さらに長久保川に沿って登って行きます。今回は車道がどのくらい走れるかというのが不安でしたが、南面の車道故か、杉ノ峠の登山口まで雪は無く、問題なく通行できました。
登山口に到着し、周辺の風景を見て驚きました。一帯は山火事の影響で丸裸の状態で、まだ新しく植林されたばかりのようです。登山口に立てばコースのほとんどが見渡せるといった感じでした。断片的にインターネットで見ていましたが、これほどとは思いませんでした。
さて、準備を整えて出発すると、杉ノ峠へは柔らかい土の尾根をジグザグに登ること20分でつきます。こういう状態ですので、すべてが開放的で、登っている間も少し違和感がありました。植えて間もない植林の横には焼けこげた切り株が規則的に並んでいるのですが、それが規則正しく並んだカレンフェルトの様に見えました。登り着いた杉ノ峠には大杉と祠があるのですが、二又になっている大杉の片方の幹が、途中から折れて倒れていました。ちょうど大杉の立つ稜線が火事の境界のようで、ギリギリ焼け残ったという感じでした。
杉ノ峠からゆったりとした稜線を山頂へと向かいます。向かって左側は開けっぴろげな空間で、右側の北面は植林地が続きます。日が降り注ぐ道なので、雪は全くありません。これでは、父不見どころか、父は隠れようがないでしょう。最初の開放的なピークを越えて、次の登りが父不見山への道になります。直線的に登りますが、それほど傾斜はきつくはなく、登り着いたところからさらに奥まった所へと緩やかに登ると山頂に着きます。ここには立派な標柱がありますが、三角点はありません。代わりという訳ではないかもしれませんが、「三角天」と掘られた石が置いてあります。
山頂の南面は秩父の山々が一望できます。武甲山や大持山が目立っていますが、その谷間の秩父市街には朝霧がかかったような感じで、幻想的な風景を見ることができました。北側は樹林に覆われ展望はありませんが、冬枯れの樹の間から御荷鉾山を見ることができました。正面にある本庄ゴルフ場は父不見山と同じぐらいの高さにあるようです。
父不見山から長久保の頭までは、日陰に入る部分があるので、一部が初めての雪の上の歩きになります。急坂を下って同じくらい登り返す道ですが、せいぜい6〜70m程度です。途中は、晴天の山々の展望を楽しみながら歩いていきます。西の山々はなかなか山陰に入って見えてこないのですが、それでも歩いているうちに、叶山や両神山、八ヶ岳、奥秩父主脈など時々顔を出してくれました。このコースは南東面が主に開けているので、意外とそれらの山々が見えないのだなと思いました。
長久保の頭は三角点のある山頂で、道はさらに坂丸峠へと続いています。また南に延びる尾根にも道があり、道標には寺平・摩利支天とあります。坂丸峠に降りてしまうと、車道を大きく迂回してこないと行けないのですが、南の尾根に乗れば迂回の先端部分に出るので車道歩きを半分に減らすことができます。坂丸峠方面行って、見るべきものは?とも考えたのですが、ひょっとして両神山や二子山のもっといい展望地があったのかもしれません。
南に向かう尾根は、時々薄くはなりますが踏み跡が続いています。この尾根は延焼を免れており、緩やかにアップダウンしながら下って行く道は、ほとんどが植林地の中で展望はありません。しばらく行くと、やがて明るい平らな場所に出ました。ここは少し開けていて、北の父不見山山頂とその横に御荷鉾を見ることができました。さらに尾根を南下し、小さなピークを巻いたあたりで、間伐を行っている植林地に出ます。ちょうど作業が進行中で、薄暗い植林地とは違って、日差しが差し込んで明るくすっきり見えます。理髪点に行ったあとみたいです。
間伐中の植林地に沿って少し下ると林道に降り立ちました。やはり大きく尾根を迂回する林道「父不見山フラワーライン」の先端でした。あとは車道歩きで登山口に戻るだけですが、しばらくして再び山火事跡に入ってくると、あまりにも開けっぴろげなので、父不見山頂はすごく近くに見えています。これだけ近く見えるとなんだか有り難みがないように感じてしまうのでした。
帰路は小鹿野まで出て、少し県道を南下すると、すぐに4日前に行った両神温泉です。せっかくなので温泉に入り、今度は節分草の苗を買って帰りました。マンションで毎年咲かせるのはなかなか難しいかもしれませんが、しばらく楽しんでみたいと思いました。また、文中にある摩利支天は、後で調べてみると近くを通過しているはずなのですが、歩いている時は解りませんでした。
本文中の写真
杉ノ峠の祠
父不見山頂
父不見山頂からの秩父の山々
林道から父不見山を見上げる