天塩岳

 天塩岳 1,557.7m 前天塩岳 1,540m 円山 1,433mm
 山域:道北

記録
 山行日2014年9月28日(日)
 ルート天塩岳ヒュッテ→前手塩岳→天塩岳→新道・連絡道経由→天塩岳ヒュッテ
 コースタイム0720 天塩岳ヒュッテ登山口 → 0748 新道分岐 → 0804/11 天塩岳旧道分岐 → 0942 前手塩岳巻道分岐 → 1000 前手塩岳 → 1057 滝上登山道分岐 → 1005 天塩岳 → 1136/47 避難小屋 → 1202 円山 → 1247 新道・連絡道分岐 → 1347 登山口
 天候曇りのち雨

今回の北海道山行のメインは天塩岳としました。前日比布の温泉に宿泊しましたが、比布は旭川から近く、天塩岳は名前からすると随分北の方というイメージになりますが、大雪山の向かいに位置し、ここから宗谷岬まで、山は高さを徐々に下げていきます。道央と道北の分水嶺となっていて、北に流れる天塩川の源流の山なのです。

天塩岳という山自体に何か特別な印象を持っている訳ではない。むしろ天塩川は、学生時代に乗った夜行急行利尻の明け方の車窓からの、朝靄の立ち上るゆったりした流れと、川に沿って緑の山を縫うように走る列車の印象が、道北の旅行を思い出すとき真っ先に浮かび上がる光景なのである。
比布のホテルを出た時、空は雲が多かったが、それでも少しは青空が見えていた。但し夜中に雨が降ったのか、路面はすっかり濡れている状態であった。愛別町から士別に向う山間の道道を北に向って走っていくと、於鬼頭トンネルを抜けて分水嶺を越え、天塩川の領域に入る。人工物の全く無い周囲の山々は既に紅葉が始まっていて、秋の色となっていた。
道道からポンテシオダムへの道に入る。山間の道は舗装はダムまで、あとは未舗装の道が伸びているだけである。狭い道は色づき始めた林の中をどんどん奥へと進んでいく。そして新道の登山口を越えると天塩岳ヒュッテの広い駐車場に到着した。天塩岳ヒュッテは素泊まりの可能な小屋で、立派な造りであった。
駐車場に停めると、今まで音を発していなかったラジオが突然鳴り始めた。丁度天気予報で、今日は寒冷前線の通過に伴い地上でも13mの風が吹くとのこと。これでは、稜線は相当な強風が予想される。この時期に、稜線で雨風に吹きこめられるのは極めて楽しくないどころか、ある意味危険なのであるが、ここで引き返すというのも残念なので、準備をして出発した。しかし、気分は暗く、むしろラジオがずっと入らなければ良かったのにと思ったくらいであった。
登山口からは、車が通れる位の幅の道が続く。かつて作業道として道を作ったのだろう。すっかり幅の狭くなっている天塩川の流れを時折渡りながら森の中の道を進んでいく。まもなく、1人の登山者とすれ違うが、稜線の避難小屋泊まりだったのだろうか。
道はやがて、新道への連絡道を右に分け、少し山道らしく狭くなったが、崩壊はしているものの広い道の名残も残っている。沢を直登して天塩岳に向う旧道と別れ、前手塩への道を進む。広い道のまま折り返しで少し高度を稼ぐと、再び山腹を緩やかに登る道が続く。かなり長い距離を歩いてきたが、それほど高度は稼いでいない。しばらく山腹に沿って歩き、やがて左に折れて山腹に取り付いて、やっと本格的な登りとなった。
この登りは大した急登である。一気に山頂まで標高差450mをグイグイ登って行く。山は風が騒がしく、時折突風が吹き過ぎる。そういった状況の中で気分の乗らないこの急登はかなりきつい。振り返ると西天塩から円山あたりの緩やかな稜線と紅葉の尾根が遥か高くに見える。道は補修によるものか岩屑が多く多少歩きづらいのもきつい要素である。とにかく登るしかないと黙々と歩を進めていった。
樹木がだんだん低くなってくると、前手塩の巻き道の分岐が現れた。山頂を巻いて天塩岳の方に進む道であるが、さすがにこれを選択する手は無い。すでにハイマツ帯となり、若干傾斜が緩んだ直登の道をさらに登る。このあたりは山火事で岩場が露出しており、気候が厳しい中で植生の回復が進まないらしい。風はすでに強風となって背後から吹き付けてくる。体を押し上げてくれるわけだが、時々ふらつくほどの風である。山頂が近づくとガスの中に入ってしまい、多少狭くなった稜線を風に飛ばされないように意識して進む。前手塩の山頂は標識が立つのを認めたのみで、乳白色のガスに閉ざされ、全く展望は無かった。
強風の中、長居は無用で天塩岳への吊尾根を下っていく。天塩岳と前手塩岳はそれほど標高の差は無く、鞍部に降りての登降は200m下って登り返すこととなる。下りに入ると背の高さぐらいのハイマツに谷間に入るので風は気にならなくなった。そして、だんだんガスが取れて明るくなってきた。巻き道と合流し、さらに下っていく。この稜線は南北の背骨に当たり、前線の通過の影響であたりは雲が多いが、遠く東西方向は晴れて陽が射しているのが見える。遠くであれ、陽が射しているのが見られれば気分も明るくなる。そして、この潅木と笹の中を行く稜線は伸びやかで、晴れていれば大変気持のいいところだろうと想像できる。今日の天気は少し残念である。
鞍部から振り返ると、前手塩はガスが取れて山頂が見えている。これから向う天塩岳の方はガスの中のようだ。高いハイマツの中を一頻り登ると、山頂の北の肩に出て、滝上からの道が合流する。ここから天塩岳までは向きを西に変え、樹木の無いお花畑といわれる所を通過する。このあたりは風も無い。山頂の影になっていて、雪も吹き溜まる為、木が育たず草原状となるということだろう。そしていよいよ山頂部に出たとたん、顔が歪むほどの強風に吹き付けられた。今まで山の陰を歩いていただけで、やはり風は吹き荒れていたのである。
山頂で休憩できるといった状況ではないので、早々に下山する。この山頂は正面に大雪山を望む展望の山頂のはずだが、今日はガスが吹きつけるだけの山頂である。強風に逆らって下山していく。ガスで風景は解らないので、足元の道型を頼って下るのみである。ハイマツの中の岩礫帯で、しばらく折り返して高度を下げるとやがてガスから出て傾斜が緩み、周囲の木々や笹原の背が高くなり、風もあまり感じなくなる。このあたりから西天塩を越え円山にかけては明るく伸びやかな笹の美しい稜線が広がる。青空があれば最高のゆったりとした稜線である。
再び明るい気分になって緩やかに下っていくと、女性4人のパーティーとすれ違う。登山口付近ですれ違った人を除けば、今日山中ですれ違った唯一の登山者であった。山頂の様子を聞かれたが、残念ながらいい返事は出来なかった。
西天塩岳を左手に緩やかな道を下っていく。西天塩へもどうやら切り開きがあり、道が付けられているようだが、こういう日であればとても足を伸ばす気にはなれない。分岐から僅かで避難小屋着。長らく歩いて来たので、小屋の前でゆっくり休憩とした。天塩岳や前手塩の山頂は時折ガスが取れるが状況はそうは変わっていないようで、すれ違った人たちは大変だろうなと思う。
避難小屋からは円山への緩やかな登りとなり、山頂に立つとこれまた風が強い。その上、先ほどまで幾分明るかった空も再び暗い雲に覆われできた。円山は広い山頂部があり、季節により花も多いようだ。円山から再び風に向っての下りとなる。100mほど下って、小さなピークを越え、その後ダケカンバなどの樹林帯に入り、稜線の下りである。どんどん高度を落とし、稜線の右側の樹林の中を行くようになると、直進する新道とヒュッテに向う連絡道の分岐となる。樹林帯に入るころ、ポツポツと雨が落ち始めたが、このあたりでついにはっきりした雨となってしまった。
連絡道に入ってさらにどんどん高度を落とす。樹林帯の中には時折美しい紅葉があり、思わず立ち止まってみる。やがて沢音が聞えるようになり、沢に沿うように下って朝方通過した分岐に戻ってきた。ここからは往路に通った広い道だが、雨は土砂降りとなってしまった。しかし、雨の中の紅葉も風情があり、無事に戻ってきた安堵感もあって、何となく軽い気分で激しい雨に打たれながら色づいた森の中を駐車場へと歩いていった。

さて、今年の北海道はたぶんこれで終わりですが、やはりこれだけの深い自然の中を歩けるのは、関東近郊には少ないので、病み付きになります。飛行機+レンタカーでスムーズに直行できるというのも便利です。高速道路で渋滞といったことも無いし。北海道の中は標高のわりに距離があり、道も野趣に富み、険しくもありというところですが、また来年を楽しみにしたいと思います。

本文中の写真

  • 天塩川源流部
  • 前手塩岳の山火事跡
  • 前手塩岳と北に向う稜線を振り返る
  • ガスの中の天塩岳山頂部
  • 西天塩岳と円山の穏やかな稜線
  • 往路に合流し登山口に向う

  • 参考図書・地図
    アルペンガイド 北海道の山(2000年4月 初版1刷)
    25000図 宇江内山 天塩岳
    50000図 上川

    避難小屋からの前天塩岳と紅葉の谷
    その他のコース
    ・天塩岳ヒュッテ〜旧道〜天塩岳
    ・滝上〜天塩岳
    交通機関
    このコースでは利用できる公共交通機関はありません。