長い登りをじっくり歩いてみたいと思いました。登っている時が一番楽しい時というのは、実は後で考えての印象であって、実際その場ではそうでもないというのが、本当なのかもしれませんが、いい登りがあった山はやはり印象に残ります。以前浅間尾根から見た、御前山の湯久保尾根の様子が印象に残っていて、この尾根であれば、今回はじっくり登れるだろうと計画したのです。
御前山に前回登ったのは、18年以上前。結婚式を2週間後に控えてのことでした。早いものですが、山はずっとそこにあるわけで、つい先日のことのように思えます。
1.登山口まで
先週末は、都心でも積雪を見て、その後気温の低い状態が続いているため、電車の車窓からは、雪景色もちらほら見えています。そんな中での山ですから、当然奥多摩の登山道は豊富に雪があることは予測されました。
武蔵五日市駅からの小岩行きのバスは、丁度席が埋まる程度で、そのほとんどは、払沢の滝入口で下車していきました。確かに今日は浅間嶺に登ると楽しいでしょう。その後は千足で2人、白倉で1人、大岳山方面です。そして宮ケ谷戸では私を含め2人下車しました。今日みたいな日は一人でないということは若干安堵です。
2.湯久保尾根
バス停で装備を若干整え、少し手前の赤い橋を渡ります。御前山登山口の標識に導かれ、民家の間を進むとすぐに登山道の入口がありました。先行者がアイゼンを付けて登っていったので、私もアイゼンを付けようとしましたが、前回付けたのは、はるか昔のことで、どうも付け方を忘れてしまってうまくいきません。まぁそのうち思い出すだろうと、結局付けずに登り始めました。
民家の後ろからジグザグに緩やかに登ると、尾根に出て、鳥居が下に見えまるところに出ます。ここは尾根を真っ直ぐ登れば神社の境内へと向かうのですが、登山道は尾根の左側を巻くように付けられています。このあたりは、道は傾斜が一定になるように緩やかに付けられていて、汗をかくほどでもなくゆっくり高度を上げていくところです。雪は有ったり無かったりという状態で、それほど滑りもせず歩けました。
ゆったりとした、いい道を1時間ほど歩くと、民家と畑がありました。南面の暖かそうな場所ですが、それにしても1時間山道を歩いて、やっと最後の民家です。これは先は長いぞという実感が出てきました。そしてここからは、道も狭くなり、平均的ではありますが、傾斜も気持ち急になり、雪も少なくとも足首ぐらいまでは積もるようになりました。
まもなく、露岩のある場所を通過していきました。ずっと植林地が主体のこの尾根の中ではいいアクセントです。岩の出た道も雪に埋まって歩きやすくなっていました。ここを超えると、再び単調な樹林の中を進み、やがて植林が切れた明るい場所に出ました。葉の落ちた樹間から三頭山が綺麗に見えました。富士山もありましたが、こちらは白く霞んでいました。
このあたりは稜線は右上で、その南面を歩いていきますが、そろそろ仏岩の頭のあたりではないかと推測していましたが、特にそれを示すようなものはありません。巻いていく登山道は再び尾根に合流すると、左下から登山道が上がってきており、道標にはそちらは湯久保とありました。既にバス停から2時間経過しており、湯久保への分岐とすれば、まだ仏岩の頭まで来ていないということになります。ますます先が思いやられてきました。
すでに地面はすっかり雪に覆われ、3〜40位の積雪になっているようです。先行者のトレイルを忠実に踏んで、とにかく足を動かして行きます。時折足跡を踏み抜いたり、傾斜で滑ったりはするのですが、このトレースには大いに助けられます。無ければ敗退ということになるかもしれません。単調な道ですので、なかなか休憩するきっかけがつかめませんが、尾根道が唯一下り坂になる地点で休憩しました。すでに11時15分。そろそろ3時間になろうとしていました。場所的には、湯久保山のあたりであったと思われます。
さて、前面にはさらに2つ3つコブが見えています。緩やかに下ったあと、再び緩やかな登りが続きます。このあたりで、御前山2km、宮ヶ谷戸4.8kmの道標がありました。この尾根で初めてで唯一の距離の入った道標です。尾根は広くなったり回り込んだりしつつ、淡々と登って行きます。そして、トレースは五日市警察署の看板の指示に従って、右を回り込んでいくようになります。御前山の右の肩の避難小屋へ向かう道に入った訳ですが、トラバース道は雪を踏み抜きやすく、斜めではありますが、じわじわ高度を上げて行くので、滑ることも多く、おまけに回り込んでもさらに先があるという感じなので、ちょっと苦しいところでした。最後はジグザグに斜面を上がって大ダワとの縦走路に出て、長い湯久保尾根の登りが終わりました。4時間以上かかってしまいました。
3.御前山から下山
縦走路から山頂までは急な道ですが、通行者が多いのでしょう。よく踏まれていました。4〜5人とすれ違い、登り付いた山頂は雪に覆われていました。18年前の御前山の記憶は明確では無く、どこかに古い避難小屋があったかな程度ですので、改めて山頂を楽しむことにしましょう。
葉の落ちた樹間からは、飛龍〜雲取〜鷹ノ巣と奥多摩のスターが真っ白く連なっています。かつて見慣れた風景でしたが、本当に久しぶりに見る風景です。一見して、そうだな。彼らはこういう形をしていたんだと思い出しました。そのうちにアイゼンの付け方も思い出し、下山のよく踏まれた急斜面に備えて装着しました。
下山は、小河内峠を経て陣馬尾根を考えていたのですが、もう2時も近いですし、人も少ないでしょうから、下山も多少困難が予想されるので、安全策で大ブナ尾根を下ることとしました。御前山から惣岳山までは明るい雪のプロムナードで、とても開放的です。大ブナ尾根の下りはスキーの上級者コースの上に立った様で、正面に奥多摩湖や石尾根を見ながら急下降していきます。しかし、地面や岩や階段の類は全て雪の下なので、結構快調に下って行きました。
かなり下って、若干の登りがあって、サス沢山へ。ここからの奥多摩湖と榧の木尾根の展望は最高ではないでしょうか。今までどこも開けた展望の場所が無かったので、今日の一番いい展望の場所だと思いました。あとは、小河内ダムに向けてどんどん下って行きますが、最後まで急坂の続く厳しい下りでした。小河内ダムを渡ってバス停に着くと、なんと2分で奥多摩駅行きのバスがやってきました。
長い登りを楽しむということで歩いた訳ですが、雪道なので、ペースと現在位置がつかみづらく、その分気持ち的に苦労しました。山頂まで4時間半かかったのも久しぶりですが、終わってみてもやはり登るのは楽しいことだと思えました。
本文中の写真
湯久保尾根登山道上の露岩のあるあたり
湯久保尾根のトレース
御前山と惣岳山の鞍部付近
サス沢山からの榧の木尾根