今年初めての関東の山は、アクセスが良くて行ったことのない名山ということで、武甲山に登ってみることにした。何かと問題の多い山ではあるが、一度は登ってみたい山でもある。
先週の雪がまだ残る車窓は、高麗駅を過ぎるとすっかり白くなった。閑散として暖房の効かない車内は寒く、椅子の下の暖気の具合をみながら、少しでも暖かい所に移動する。横瀬あたりに来ると、車窓に武甲山が広がる。実に根を大きく張った雄大な山であるが、削られた岩肌に雪が付いて、なんとなくアルペン的風貌も感じさせるようになっていた。
西武秩父駅からタクシーに乗り、生川まで行く。道は工場の中を通る様な雰囲気で、山のプロローグという感じではない。タクシーで一の鳥居まで入ってもらう。まだ上まで行けますよと言われたが、せめてここから歩くのが武甲山に登るということだろうと思って下車する。すでに登山口から30センチくらいの積雪があり、軽アイゼンを付けて出発した。
鳥居を潜って雪の積もった車道を歩き、鱒釣場の中を通っていく。再び広い道に出ると、川に沿った植林地の中の道となり、丁目石が短い間隔で出てきて励みになる。但し、全部の丁目が揃っている訳でもないようだ。
立派な山頂への道標がある15丁目から、細い山道へと入っていく。植林の中を雪を踏みしめて登っていくと、すぐに小さな流れのある18丁目についた。ここには祠があり、またこのコースの最後の水場でもある。以後は植林の中を緩やかに登る全く変化のない道が続く。途中大杉の広場という場所があるが、植林の中の小広場で、気持ちのいいといった場所では無い。そのまま通過し淡々とした道を、意識してせっせと足を動かしていった。
42丁目で旧道が右に曲がっていく。かつでの52丁目までの道はそちらを辿ったようである。従ってこれ以後は、丁目石が無くなった。相変わらず暗い植林の中を進むと左側が若い植林地となって、頭上が明るくなってきた。このあたりで、南の大持山や、武川岳への尾根が見え始める。そして階段の道になると、段差も激しく苦しい登りとなった。
登り着いた十字路は南側が大きく開けている。残念ながらすっかり雲がかかってしまい、気持ちいい青空が見られないが、展望は良く効いていた。北からの長沢背稜の展望は新鮮な眺めであるが、山頂近くまで林道が上がってしまっているのがよくわかる。右に折れると神社に着く。境内から裏に回ると柵に囲まれた展望台があり、足元に重機が走り回っていた。展望は申し分なく、両神山がよく目立ち、また浅間山の白さが印象的だった。
下山は浦山口に向かう。急坂を下っていく道沿いには、発破の時の為の避難所がいくつかでてくる。こちらの道が多少雑木林も混じり、表参道よりは明るい。長者屋敷の頭を過ぎると尾根は緩やかになり、しばらくは明るい道が続く。今は冬枯れの雪の積もった光景だが、緑のある時期は美しそうだ。やがて植林地の下りに入る手前で、最後の休憩とした。
最後の暗い植林地は、急な斜面をジグザグに下っていく。そして下りきると沢の流れにそった広い道にでた。沢の岩には雪が積もり、きれいな景色になっていた。途中になかなかいい滝もある。そして、程なく林道にでて、浦山口駅に向かってぶらぶらと歩いていった。
武甲山の感想を書くのは、なかなか難しいのだが、横山厚夫氏が関東百山の中で最後に「心おだやかではなかった」と書かれている。なかなか的を射た表現であると思った。
本文中の写真
雪の中の武甲山頂御嶽神社