2ヶ月間、ずっと風邪をひいていたのである。いつのまにか喘息気味になってしまい 、咳が止まらない間に、3回も風邪をひいた。山にも何度か行こうとしたのだが、丁度本格的に熱が出たり、雨が降ったりでまったく、山に登れずじまい。したがって、よけいに風邪がなおらないという悪循環なのだ。
しかし、やっとこさ体調も上向き加減になってきたので、本格的に風邪をなおしに山に登ることにした。選んだのは、リハビリ気分で登れそうな秩父と比企にまたがる笠山である。決して旬とはいいがたい山だが、汗をかくには、ちょうどいいということで....。
小川町が近づいたら、笠山が近くに見えるはずなのだが、曇ってしまってなにもなかった。どんよりと曇っているというほどでもないけれど、空気もぼやっとしている感じ。でも、別に今日は展望とか、青空の中の清々しい風とか、そういうことを期待していた訳ではないので、別にこれでいいんだ。
駅前から川越観光バスという名に変わってしまった、元東武バスに乗って、皆谷で降りるつもりが、もう少しで着くぞと思いつつ、ついうとうとしてしまい、気がついたらなんと終点の白石車庫だった。きっとこれは風邪薬が効いたからに違いない。しかたがないので、逆回りにしよう。
梅雨時のこんなじめじめした日でも、3〜4人のハイカーが降りて山に向かっていったのにはちょっと驚いた。へぇ....物好きだねぇ。ん?
集落と畑を縫う道に沿ってはちょうどアジサイが満開である。このなんとも妖艶な赤紫の色、そして清楚な薄青の色に、なぜか大いにエロスを感じるのある。
とりあえず舗装道路のうちはサンダルでスタスタ歩いていたが、山道へと入り、路上に水も流れるようになるとさすがに靴に履き替える。ちょうどタイミングよくかみさんからの携帯がなって、
「どこにいんの?」
「山だよ山」
「へぇ、珍しいね。どこの?」
「埼玉の」
「ふうん」
いつのまにか夫婦の会話には山の名前が省略されるようになった。低山ハイクではまぁいいことにする。
白石峠への道はさすがに峠道らしく、すいすいと進んでいく。歩きやすく、意外に雑木林が豊富で、リハビリハイクには丁度良い道だ。曇っているので、思ったほど暑くはないのもいい。登り詰めていくと、道ばたにいくつかギンリョウソウの集落を見る。梅雨時に見ると特に季節を感じる花で、好きなのだが、今日は残念、カメラが無い。峠が近づくと、道も緩やかになり、車が行き交う交差点といった風情の白石峠に出た。
再び山道に入ると、向こうから町内を歩いているおじさんという風情の男が一人でおりてくる。
「いや〜。はいつくばって降りてきたよ。てーへんだよこりゃ〜!!」
と騒いでおられた。
「まぁゆっくりいきゃ〜大丈夫ですよ」
と、いうと、しきりに大変であったことを力説された。
ピークの剣ヶ峰は山頂にアンテナが居座っており、摩利支天劔峰神社の石碑は無造作に隅に追いやらた格好で残念だ。再び車道におりて、ガスの流れる中をポツポツと歩き、適当なところで山道に戻れば堂平山の山頂に着く。
適当なところというのは道標が無いからで、なぜ無いかというと、逆回りに歩いているというのがその理由からである。秩父七峰縦走コースの順回りの看板はやたら多いのだが....。
堂平山の山頂は天文台の敷地になっていて、フェンスで閉ざされているが、門の所に隙間があったので、せっかくだから不法侵入した。20cmくらいの隙間なので、私の場合、腹がつっかえる。このくらいの隙間なので、誰がすり抜けてもどこかしらんつっかえると思うが、きっとそれは人によってまちまちだぞ!と思う。
山頂には一等三角点があり、なんとなく不法侵入者は多いような感じであった。
堂平山直下はスキーゲレンデのような明るい草原があり、それを過ぎると林の中の下りに入る。木々の間をガスが漂い、ゆらゆらと怪しい雰囲気になった。一気に下りきって車道を越えると今度は笠山への登りとなり、からみつくような車道を右下に見ながら行くと、稜線はついに車道に分断される。
「橋を架けてくれ〜」
と言いたい。
再び対岸の稜線に復帰すると、一気の急坂が待ち受けていた。これを登りきって右に折れていけば、なんとなく山頂が近い臭いがした。と思うと木々の間から小さな広場の山頂に出て、笠山の立派な標識がある。ここは通過して少し細く暗い道を行くと、笠山神社があり、ここが本当の最高点だ。しかしこっちには標識は無いのであった。
少し休んだあと折り返して、看板の山頂を過ぎ萩平への道を下る。雑木林の中の下りで、こちらを登りにとるとじっくりとした山登りが楽しめそうだ。しばらく下って車道を横切ると、そこからは蛇行する車道を串刺しするようになり、何度も車道を渡る。そして小高い丘のような萩平の集落があり、このあたりでサンダルに履き替えて車道を皆谷に下る。バスのちょうど本数の少ない時刻にあたってしまったようで、いつの間にかガスが晴れてきて、日差しが暑い中、古い店が廃業した店が並ぶのが、かえって寂れた感じのするバス停に座り、1時間余りの読書に時間としたのであった。
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