燕岳・大天井岳・常念岳

 燕岳 2763.0m 大天井岳 2922.1m 常念岳 2857m
 前常念岳 2661.9m
 山域:北アルプス

記録
 山行日1998年7月18日(土)〜7月19日(日)
 ルート中房温泉登山口→合戦尾根→燕山荘→燕岳→燕山荘→大天荘(泊)→大天井岳→大天荘→常念小屋→常念岳→前常念岳→三股
 コースタイム1日目 中房温泉より燕岳、大天井岳
0535 中房駐車場 → 0545 中房温泉登山口 → 0615/25 第一ベンチ → 0648/55 第二ベンチ → 0725/35 第三ベンチ → 0805/15 富士見ベンチ → 0840/0900 合戦小屋 → 1000/10 燕山荘 → 1035/45 燕岳 → 1105/1155 燕山荘 → 1300/1315 大下りの頭 → 1430 喜作レリーフ → 1510 大天荘
2日目 大天井岳より常念岳、三股
0400 大天荘 → 0410/0500 大天井岳 → 0505/20 大天荘 → 0605/10 二ノ俣尾根(東天井岳) → 0740/0815 常念小屋 → 0925/30 常念岳 → 1010/1025 前常念岳 → 1130 下降点 → 1300 三股 → 1310 三股駐車場 =タクシー= 中房駐車場
 天候1日目:晴れ時々曇り 2日目:晴れ時々曇り

毎年7月ともなると日本アルプスのどこかに登って夏山始めをしていたが、今年は週半ばに急に思い立って慌ただしく北アルプスに向かった。関東では相変わらずはっきりしない天気が続いていたが、山上は本格的な夏山を告げていた。

燕岳

今回は、日本アルプスの2日で行けそうなコースから、ガイドブックの写真に惹かれて燕岳を選び、それに常念を追加して計画した。週半ばであれば当然のごとく、急行アルプスは満席だったので自家用車で中房温泉に向かいまず仮眠。次ぎに目が覚めるともう明るくなっていたのであわてて装備を整えた。
5時30分ともなるとタクシーが次々上がってきており、中房温泉前はごった返していた。夏山最初の3連休で結構な人出であり、天気も良くて、この様子なら大展望も期待できそうだ。急登で有名な合戦尾根は、前後に人が切れず数珠繋ぎになって登っていくことになるが、大人数のパーティはいないので、かえって適度なペースで順調に高度を上げていった。いろんなパーティーと抜きつ抜かれつ、30分毎に出現するベンチで休憩しながら進んでいく。7時に近くなると、ガスに覆われてしまい若干肌寒くなってきた。林がカラマツからコメツガ・タケカンバと徐々に変わっていき、賑わう合戦小屋に到着。さっそく名物のスイカを試してみる。この水分と糖分の充実した、甘く冷たいスイカにしばらくは夢中になっていたが、結構大きいためいざ合戦小屋をスタートして登りにかかると腹が随分重くなってしまったのであった。
合戦沢の頭で森林限界から出て明るい道に変わる。花の咲く道をゆったり登ると、遠かった燕岳や燕山荘も近づいてきて、テン場の脇を登り稜線に登り着いた。ここでは登りついた人々から次々と歓声が上がる。槍から北はほとんど雲が無く雲の平から後立山へと遮るもののない大展望が展開していたのだ。やはり北アルプスの魅力はこれだ。そしてこの2日間、常念に着くまで槍穂高を中心とした展望とともに歩くことができた。荷物を置いて燕岳を往復する。花崗岩の風化した白砂の道にいろんな形の岩塔の立つ道は目を楽しませてくれてなかなか楽しい。鳳凰三山とも似た雰囲気がある美しい山だ。燕岳の山頂に立って再び展望を楽しむ。立山の向こうに剱も見える。白く眩しい山は照り返しも強く目を明けていられないくらいだ。帰りもいろいろな岩塔を槍の前に配した風景を楽しみつつ燕山荘に戻った。

大天井岳

燕山荘にもどり昼食かたがたジョッキの生ビールで乾杯した。じりじりと焼け付く夏の太陽の下での冷えたビールは至福の境地なのである。しばらくゆっくりして、いよいよ槍を正面に見ながらの表銀座コースの縦走に入る。平坦な道とはいえ若干の起伏があり、だんだん先ほどの気分爽快のビールが、喉の乾きと頭痛を誘発するようになってきた。高山でまだ登りを控えているときに、ジョッキ一杯はいかにも多すぎたかもしれない。頭痛を伴って蛙岩の間を通過し、ゆったりした道を槍に導かれて進む。2678mの大下りの頭に辿りついて休憩し、同行者と中途でのビールは慎んだ方がいいことを確認しあったのであった。
大下りはそう長くはなく、鞍部からの登り返しは花も多くて、稜線縦走コースの中でちょっとした気分転換の様な部分である。ふたたび登り返すとコマクサの咲く平坦な縦走路になり、大天井岳が大きくなってきた。短い鎖場を下ったあと、小林喜作のレリーフから少しハシゴを登り、大天井ヒュッテ方面への道を分けて大天荘に向けて緩やかな石がゴロゴロしたトラバース道を登っていく。だんだん岩が大きくなったら、間もなくケルンが見えて今日の目的地の大天荘に到着。受付を済ませるて、所定の位置に寝転がって休憩した。
この夜の大天荘は3畳に5人だったが、寝た場所が非常に窮屈な場所で早めに脱出したいため、翌朝3時半に同行者に出発すべく声をかけた。早朝外に出ると東の空に水平に赤みがかった明かりがさして来ている。日の出までは1時間程度時間があり、小屋のベンチで少し待ってから4時ころ山頂に向けて岩屑の道を登り始めた。10分程で頂上に到着。遮るものの無い360度の展望を夜明けの光の移り変わりとともに、1時間程楽しんだ。薄くもやのかかる北の稜線は、鹿島槍から白馬へと続く後立山連峰、その奥の稜線は立山剱連峰で、剱と八ツ峰が良く見える。そしてなんといっても正面には、北鎌を従えた槍ヶ岳、そしてキレットの向こうに北穂から奥穂。正面の位置に見える吊り尾根を経て前穂。連峰は若干斜め北から見ているので間が詰まって見えるが、眺めは雄大そのものであった。登ったころは灯りが目立っていた北穂頂上や涸沢も、回りが明るくなり目だたなくなると、ついに日が昇り始め1日の中でも10数分に凝縮された、山の色が次々と変わっていく時間になる。この間カメラを手に赤く染まる槍穂をずっと眺めていた。
さて、すっかり明るくなったころで小屋までもどる。大天井岳は標高も高く、尾根の交差する要衝にあるため360度の展望が得られ素晴らしい山だと思った。ちなみにこの山は最近「だいてんじょうだけ」と読む様になっているらしい。
まだ人のまばらな稜線を出発する。ほとんど平坦な道はずっとコマクサが咲いていたが、結局シロバナコマクサは見ることができなかった。右側はずっと槍穂を見ながらの道で、ピークもすべて右側を巻いていく。東天井岳や横通岳は、これから常念に登ることを考えると、一つ一つ登るまでの気力は無く巻いていった。横通岳に向けての下りから、二ノ俣尾根までの広い草原状の斜面に黒い大きな動くものを発見。もそもそと、しかもスピードのあるその動きは熊ではないかと、あたりは賑やかになった。
さて再び緩やかに登って横通岳を巻き、正面に常念への急登を恨めしく思いつつ、眼下に常念小屋を見て一気に下って、常念小屋のベンチで弁当を開いて朝食とした。

常念岳

三股でのタクシーを予約し、乾杯用のビールを仕入れて、最後の常念の登りにかかる。ゆっくり登って一気に登りきろうと思ったが、直前で挫折。前常念の分岐に荷物を置いて、空身で常念まで登った。狭い山頂は人でごった返していた。ほとんどが常念と蝶の縦走途中の人々だと思う。私たちは蝶ヶ岳は次回の宿題として今回はこれにて終了、ハイお疲れさまなのであった。さて山頂からは槍穂が見えるが、もうガスが出ていて隠しており、またこちらはずっと見てきた風景なので、北の大天井岳の眺めを楽しんで早々に下山した。
分岐まで戻ってビールを飲むと、登り降りする人が多くいかにも目立つので、前常念で乾杯とし、岩のゴロゴロした道を跳びながら下っていく。前常念は白い岩に囲まれた尾根の肩の三角点で、ここで乾杯。今日もジリジリ照りつける太陽で結構灼けてきた。前常念からのコースタイムをチェックすると、昭文社や岳人では3時間30分、ヤマケイでは1時間40分である。なんだ?この差はいったい....と思ったが、ヤマケイの「常念岳へ寄り道すれば4時間ぐらいあとにきてもらうとよい」を基準にちょっと余裕を見てタクシーを呼んだつもりが、ひょっとして全く余裕が無い。こりゃいかんと、あわてて出発した。
前常念の避難小屋からは、しばらく滑りやすいいやな感じの急下降が続く。コースタイムを気にしつつ慎重に下っていき、35分で樹林帯に入る。ここで急下降は終わり歩き易い道になる。鬱蒼とした深い森を楽しみ、2207の先から山の斜面につけられた道を下りにかかる。ジグザグの下りが延々と続き、谷の対岸の尾根を見てもまだまだ下りの先の長いことを思い知らされる。ひたすら歩くのみで、だんだんタクシーの時間が気になってくると、足も疲れてきてよく尻餅をつく様になった。傾斜が少し緩やかになり対岸の山肌も低くなってきたころ、蝶への迂回路の分岐に到着。さらに下って下降点から1時間半、久しぶりに見る小沢を渡ってやっと登山口に飛び出した。しかし、タクシーはまだ500mさきの大駐車場とのことだった。
運転手さんの話によれば、12時予約のもう1台方の人がまだ降りてこないとのこと。また、常念からこの道を下って降りてきた人は、よく捻挫していることが多く、また時間通りに下ってくる人はほとんどいないとのことだった。結構厳しい下りである。
タクシーで中房温泉まで行き、有明荘で500円で入浴。桧風呂と広い露天風呂があり、大いに満足感に浸って山行を振り返った。ちなみに、昨日泊まった大天荘とこの有明荘は両方とも穂高町営の施設である。北アルプスの入門コースと言われているコースだが、大きな山だけに歩きがいがあり、何よりも天候と展望に恵まれ満足の山行であった。

本文中の写真(順に)

  • 燕岳山頂(燕山荘方面から)
  • 大天井岳からみる朝の槍ヶ岳
  • 常念岳に向かう(横通岳方面より)

  • 参考図書・地図
    ヤマケイアルペンガイド 北アルプス(1994年3月2刷)
    エアリアマップ 上高地・槍・穂高(1995年版)
    25000図 槍ヶ岳 穂高岳 信濃小倉
    50000図 槍ヶ岳 上高地 松本

    燕岳のモニュメントと槍ヶ岳
    その他のコース
    中房温泉〜東沢乗越〜燕岳
    横尾〜一ノ俣谷〜常念乗越
    ヒエ平〜一ノ沢〜常念乗越
    その他槍ヶ岳、蝶ヶ岳などとの縦走
    交通機関
    穂高駅〜中房温泉のバスがあります。運行状況については、安曇観光タクシーでご確認下さい。


    Nifty FYAMA 投稿文

    今年の夏山始め【燕岳〜常念岳】

    ここ数年7月になると、まず日本アルプスのどこかに登って夏山シーズンを開始していましたが、今年は全く計画なし。でも連休でもあり、妻の許可もおりたので、慌ただしく出かけてきました。関東では相変わらず梅雨が明けたか明けないかわからない様な変な気候が続いていますが、山上は本格的な夏山を告げていました。


    【日 程】98年7月18日(土)〜19日(日)
    【目 的】燕〜常念
    【天 候】18日 晴れ時々曇り 19日 晴れ時々曇り
    【コース】18日
         0535 中房駐車場 → 0545 中房温泉登山口 → 0615/25 第一ベンチ →
         0648/55 第二ベンチ → 0725/35 第三ベンチ → 0805/15 富士見ベンチ
         0840/0900 合戦小屋 → 0915 合戦沢の頭 → 1000/10 燕山荘 →
         1035/45 燕岳 → 1105/1155 燕山荘 → 1300/1315 大下りの頭 →
         1430 喜作レリーフ → 1435 喜作新道分岐 → 1510 大天荘
         19日
         0400 大天荘 → 0410/0500 大天井岳 → 0505 大天荘
         0520 大天荘 → 0605/10 二ノ俣尾根(東天井岳) → 0740/0815 常念小屋
         → 0915 前常念分岐 → 0925/30 常念岳 → 1010/1025 前常念岳 →
         1130 尾根からの下降点 → 1300 三股 → 1310 三股駐車場
         =タクシー=中房駐車場
    【メンバー 】会社の同僚と 2名
    【山 域】北アルプス
    【参考書】昭文社エアリアマップ 上高地・槍・穂高
         ヤマケイアルペンガイド 北アルプス


    1.中房温泉へ

    先週の子守のご褒美として、今週は2日間山に行っていいことになっていたが週の半ばになって会社の同僚を誘うとOKの返事。それではといろいろ行き先の候補を上げてみた。とりあえず燕も含めて五竜、甲斐駒、木曽駒、越百山があがった中で、ガイドブックの燕の写真がきれいということで、燕岳へ。そして燕岳で2日はもったいないということで、常念を追加して計画完成。さっそく駅に行ってみると当然のことながら、アルプスは満席でこの会議室で駐車場情報をさがし、大丈夫そうなので自家用車で向かうことにした。
    金曜日は若干出遅れ気味の10時30分スタート。11時に同行者を拾って、高速を走る。とにかく早く着いて駐車場確保と仮眠をとりたくて、多少眠いのもかまわず強引に走って3時過ぎに中房温泉着。手前の3段の駐車場に数台空きがありまずは成功。次ぎに目が覚めるともう明るくなっていたのであわてて準備にかかった。

    2.燕岳

    5時30分ともなると、夜行列車からのタクシーがどんどん上がってきており、中房温泉前はごった返していた。夏山シーズン最初の3連休であり、天気もまずまずということで大変な人出である。また雲一つ無い青空に恵まれ大展望も期待できる。中房温泉を出発し急登で有名な合戦尾根を登り始める。前後に人が切れず数珠繋ぎになって登っていくことになるが、大人数のパーティはいないので、かえって適度なペースで、順調に高度を上げていくことになる。ジグザグに高度を上げ、一登りで第一ベンチへ。水場で水を補給し、いろんなパーティーと抜きつ抜かれつしながら、30分毎に出現するベンチで休憩しながら進んでいく。7時に近くなると、日に当たると暑いぐらいの陽気であったのが、あたりはガスが覆われてしまい若干肌寒くなった。林がカラマツからコメツガ・タケカンバと徐々に変わっていき、富士見ベンチを過ぎて一登りで賑わいが聴こえてくると合戦小屋に到着。さっそく名物のスイカにかぶりついた。この水分と糖分の充実した、甘く冷たいスイカにしばらくは夢中になっていたが、結構大きいためいざ合戦小屋をスタートして登りにかかるとお腹が随分重くなってしまったのである。
    やがて合戦沢の頭で森林限界から出て明るい道に変わる。道中キツネが登山道の脇から顔を出したりした。花の咲く明るい道をゆったり登ると、遠かった燕岳や燕山荘も近づいてきて、テン場の脇を登り稜線に登り着いた。
    稜線に登る人々から次々と歓声が上がっていた。槍から北はほとんど雲が無く雲の平から後立山へと遮るもののない大展望が得られたからである。やはり北アルプスの魅力はこれに尽きる。そして、この2日間は、常念に着くまで槍穂高を中心とした展望とともに歩くことができた。
    荷物を燕山荘に置いて燕岳を往復する。花崗岩の風化した白砂の道にいろんな形の岩塔のモニュメントの立つ道は目を楽しませてくれてなかなか楽しい。鳳凰三山とも似た雰囲気がある美しい山だった。燕岳の山頂に立ってまた展望を楽しむ。立山の向こうに剱も見える。白く眩しい山は目を明けていられないくらいだ。照り返しで良く焼けそうである。帰りもいろいろな岩塔を槍の前に配した風景を楽しみつつ小屋に戻った。

    3.表銀座コース〜大天井岳

    燕山荘にもどり昼食かたがたジョッキの生ビールで乾杯する。じりじりと焼け付く夏の太陽の下での冷えたビールは至福の境地なのである。しばらくゆっくりして、いよいよ槍を正面に見ながらの表銀座コースの縦走に入った。平坦な道とはいえ若干の起伏があり、だんだん先ほどの気分爽快のビールが、喉の乾きと頭痛を誘発するようになってくる。高山でまだ登りを控えているときに、ジョッキ一杯はいかにも多すぎたかもしれない。頭痛を伴って蛙岩の間を通過し、ゆったりした道を槍に導かれて進む。2678mの大下りの頭に辿りついて休憩し、同行者と中途でのビールは慎んだ方がいいことを確認しあったのであった。ここでは、明日貧乏沢から北鎌を目指す、ガイド付き3人家族のパーティーが休憩していた。スピードの問題もあり、明日3時頃発つらしいが、羨ましい家族である。
    さて大下りというものの、そう長い下りでもなくそのまま登り返していく。ここは一気に歩いてビールの呪縛を一気に振り払う。この間は花も多く、稜線縦走コースの中でちょっとした気分転換の様な部分である。ふたたび登り返すと平坦な縦走路になり、目の前には大天井岳が大きくなる。このあたりから、しばらくコマクサが見られる様になる。短い鎖場を下ったあと、小林喜作のレリーフから少しハシゴを登り、大天井ヒュッテ方面への道を分けて大天荘に向けて緩やかな石がゴロゴロしたトラバース道を登っていく。だんだん岩が大きくなったら、間もなくケルンが見えて今日の目的地の大天荘に到着。受付を済ませるて、所定の位置に寝転がって休憩した。
    さて寝たところが屋根が鋭角的に床と交わる、三角定規の先みたいなところで若干スペースは広いものの、夜は身動きできずあまり気分はよろしくない。しかし、3畳に5人はこの時期よしとせねばなるまい。しかし、早めにこの場所を脱出したいため、3時半に同行者を起こして出発すべく声をかけた。
    早朝外に出ると東の空に水平に赤みがかった明かりがさして来ている。まだ日の出までは1時間程度時間がある。小屋のベンチで少し休んだあと、4時ころ山頂に向けて岩屑の道を登り始めた。10分程で頂上に到着。遮るものの無い360度の展望を夜明けの光の移り変わりとともに、1時間程楽しんだ。まずうすくもやのかかる北の稜線は、鹿島槍から五竜、白馬へ、その奥の稜線は、立山剱連峰で大きくなり、剱と八ツ峰が良く見える。そしてなんといっても正面には、北鎌を従えた槍ヶ岳、そしてキレットの向こうに北穂から奥穂。正面の位置に見える吊り尾根を経て前穂。連峰は若干斜め北から見ているので間が詰まって見えるが、眺めは雄大そのものであった。登ったころは明かりが着いて目立っていた、北穂頂上や涸沢もそれ以上に回りが明るくなりだんだん目だたなくなると、ついに日が昇り始め1日の中でも10数分に凝縮された、山の色が次々と変わっていく時間になる。この間カメラを手に赤く染まる槍穂をずっと眺めていたことは言うまでもない。
    さて、すっかり明るくなったころ記念写真をとって小屋までもどる。大天井岳は幸か不幸か100名山になっていないので、ここを目的にする人が少ないと思うが、標高も高く、また尾根の交差する要衝にあるため360度の展望が得られ素晴らしい山だと思った。ちなみにこの山は最近「だいてんじょうだけ」と読む様になっているらしい。(地元の読み方ということ)

    4.常念岳

    まだ人のまばらな稜線に向けて大天荘を出発する。ほとんど平坦な道が続き、快調に歩いていく。このあたりはずっとコマクサが現れるが、結局シロバナコマクサは見ることができなかった。(注意していなかったので、見逃したのかもしれない。)右側はずっと槍穂を見ながらの道である。ピークは巻いていくが、巻き道もすべて右側に付けられている。二ノ俣尾根を乗り越す所で休憩する。東天井岳に登る気力までは無い(常念に行く予定が無ければ登ってみるのだが....)横通岳に向けてどんどん下っていくが、そこから二の俣尾根まで、広い草原状の斜面になる。誰かがその斜面上に黒い大きな動くものを発見。もそもそと、しかもスピードのあるその動きは熊ではないかと、あたりは賑やかになる。それは谷から二ノ俣尾根の中腹まで走っていって、あとはじっとしていた。今は廃道の看板が立っているが、谷から登っていく道を通るとちょうどその出現したあたりを行くことになると思う。結構大きくて速いと思った。
    さて再び緩やかに登って横通岳を巻いていく。ここも登る気力は無い。そして正面に常念への急登を恨めしく思いつつ、眼下に常念小屋を見て一気に下り、ベンチで大天荘でもらってきた弁当を開いて朝食とする。
    三股でのタクシーを1時に予約し、乾杯用のビールを仕入れて、最後の常念の登りにかかる。ゆっくり登って少なくとも急登の部分は一気に登りきろうと思ったが、直前で挫折。同行者は見かねて先に頂上にたたた....と登っていってしまった。こちらは相変わらずゆっくり登って前常念の分岐へ。そこに荷物を置いて、空身で常念まで登った。狭い山頂は人でごった返していた。ほとんどが常念と蝶の縦走途中の人々だと思う。私たちもこのまま縦走すれば、時間的には蝶経由で三股に降りられそうだが、タクシーを呼んでしまっている。それに一旦登りがこれで最後だ!と頑張ったあとでは、とてもそんな気はしないのである。蝶は今度は上高地側から登って見ようということで今回はここで終了、ハイお疲れさまなのである。さて山頂からは槍穂が見えるが、もうガスが出ていて隠しており、またこちらはずっと見てきた風景なので、北の大天井岳の眺めを少し楽しんで早々に下山する。同行者に荷物を分岐にデポしてきたために、ビールを下に忘れてきたことを指摘されたからでもある。
    分岐まで戻ってビールを飲むと、登り降りする人が多く、いかにも目立つので、前常念で乾杯とし、岩のゴロゴロした道を跳びながら下っていく。前常念は白い岩に囲まれた尾根の肩状の三角点で、ここで乾杯。しかし今日もジリジリ照りつける太陽で結構灼けてくる。前常念からのコースタイムをチェックすると、昭文社や岳人では3時間30分、ヤマケイでは1時間40分である。なんだ?この差はいったい....とおもいつつ、ヤマケイの「常念岳へ寄り道すれば4時間ぐらいあとにきてもらうとよい」を基準にちょっと余裕を見て呼んだつもりが、ひょっとしてあまり余裕が無い。こりゃいかんと、あわてて出発する。
    前常念の避難小屋からは、しばらく滑りやすい、いやな感じの急下降が続く。ヤマケイのコースタイム(94年発行の北アルプス)と睨めっこしつつ慎重に下っていき、30分で樹林帯入口のところを35分で通過。樹林帯に入ると急下降は終わり歩き易い道になる。鬱蒼とした深い森を楽しみつつ歩き、2207の先の下降点に30分で到着。コースタイムはここから三股まで50分だが、ここから1時間30分もかかってしまった。下降点からは、ジグザグの下りが延々と続く。谷の対岸の尾根を見るとまだまだ下りの先の長いことが想像されるが、ただひたすら歩くのみである。時間がどんどん経ちタクシーの時間が気になってくると、足も疲れてなかなか踏ん張りが効かないため、よく転んで尻餅をつく様になってきた。それでもとにかくひたすらくだり、傾斜が少し緩やかになり対岸の山肌も低くなってきたと思うと標識があり、やっと蝶の分岐まで来たと思ったら、蝶への迂回路の分岐であった。1時まであと10分またひたすら下っていく。ちょっと慌てすぎたため、普通のジグザグの低山ハイクの様な広い道なのに、木の根で滑って変な方に転んで斜面に体半分落ちてしまった。擦り傷もなく這いあがってきたが事故ってのはこういう風に起こるんだろうなあと思った。危ないところである。
    久ぶりに見る小沢を渡るとやっと登山口に飛び出した。1時ジャストである。しかし、タクシーは500mさきの大駐車場とのこと、この500mは長かった。早足で10分かかってタクシーに乗り込む。運転手さんの話によれば、12時予約のもう1台方の人がまだ降りてこないとのこと。また、常念からこの道を下って降りてきた人は、よく捻挫していることが多く、また時間通りに下ってくる人はまずいないとのことだった。結構厳しい下りであった。三股周辺は離合が出来ないほど林道沿いにびっしり車が止まっており、運転手さんも困っている様である。中房まで三股から9600円であった。温泉を聞いたら、中房温泉の方は混んでいると断られたりすることもある様だから、有明荘を勧められたのでそちらに500円で入浴。桧風呂と広い露天風呂があり、大いに満足感に浸って山行を振り返った。ちなみに、昨日泊まった大天荘とこの有明荘は両方とも穂高町営の施設である。

    北アルプスの入門コースと言われているこのあたりですが、なかなか歩きがいがありました。またまた体力不足を感じる結果となってしまいましたが、最近山に行く機会自体が減ってきているだけに、どうコントロールしようかと悩むところです。展望の山は次ぎの山行への期待となってきますが、今回は雲の平の方が良さそうだなあと思いました。でも結構日数がいるため、現状では厳しいかもしれません。
    あと今回の教訓は、「昼飯時にビールは缶ならいいがジョッキはだめ」「タクシーは待ってくれるので慌てるな」といったところでしょうか。お粗末でした。