下の廊下

山域:北アルプス
1997.10.18〜10.19



下の廊下のことを友人に聞いたのは4年前くらいだろうか。ごく限られた期間しか歩くことができず、一般コースの中でも屈指の難ルートであるという話に、当時は実力的に無理かと思いつつも、いつか是非出かけてみたいと思っていた。今年は雪が少なかったこともあり、比較的早く通行可能になった。また剣・槍と歩いてきて、ここを歩く実力も備わってきたと考え、紅葉の真っ最中にでかけるべく友人と計画を練り、夜行列車の客となった。幸い2日間ともいい天候に恵まれ、遠景に2500m以上の雪をかぶった稜線を眺めながら一面の錦秋の中を行くという最高の条件で楽しむことができた。

長期予報は初日の天気の悪いこと告げていたので、欅平から遡行し2日目に核心部を歩く計画とし、急行「能登」で出発した。ところが、北陸を走る夜行列車から夜明け前の空を見ると雲一つない朝の空であった。魚津の駅を降りても寒さを感じるほどではなく、今回の山行が恵まれたものとなることを約束されたようだ。
急行「きたぐに」で先に四日市から到着していた友人たちと魚津駅で合流し、列車を乗り継いでトロッコ列車の客となった。満員の団体の乗った特別車にザックを持って4人紛れ込んで、小さくなりながらゴトゴトと山間の鉄路を進と、乗っているうちに、回りの素晴らしい紅葉の渓谷の風景やテープの案内、観光団体の雰囲気やらに影響されて、だんだん登山気分から観光気分になってきてしまう。観光地としても素晴らしい所である。
欅平駅前の登山口からさっそく登りにかかる。しじみ坂の急登だが、1時間くらいで水平道に入れることでもあり、それにもまして黒部の紅葉と晴天に気分も高揚しているので、苦もなく楽しく登っていった。標高を上げる毎に紅葉も本格的になり、本当に来て良かったと感じる。やがて水平歩道に入ると、道幅は6〜70センチの断崖沿いとなり、また谷の形に応じて忠実に回り込んでいく。奥鐘山の西壁を正面に観ながら、2回ほど小さなトンネルを通過し、正面に谷の出口を見てどんどん谷奥に入って行くと、志合谷のトンネルに着く。ヘッドランプの光だけが頼りのトンネルは、思った以上に長く続きぞくぞくする気分だ。前方に光が見えてくるころには正直ほっとした。次ぎに折尾谷を大きく回り込んで、ひたすら阿曽原を目指す。いずれにしても、渓谷美といい最盛期の紅葉といいまた、奥鐘山西壁を代表とする大岩壁や、遠くに見える雪の積もった白馬への尾根や後立山の稜線など、歓声をあげるのに暇のないほどの風景であった。
やがて水平歩道から離れて道は下りはじめ、眼下に阿曽原小屋が見えてくる。幾分疲れ気味の足に長い下りは厳しいが、少しづつ小屋も近づき阿曽原に到着した。今日は、翌日の行動時間なども考え、さらに先に進むことにした。吊橋のある東谷出合でのビバークを考えて再び阿曽原に下った分の標高差を登っていく。ここから仙人ダムまでの間、かなりの団体とすれ違う。仙人ダム周辺から黒四発電所までの間は、巨大な人工の構築物が展開し、まさに深山の秘密の要塞の様な風情である。黒四発電所の谷に向かって開いている穴から、戦闘機でも出撃して来そうな雰囲気であった。

翌日は3時半に起床し、まだ日の登らない5時前に出発する。真っ暗な吊橋を渡ると道は登りになる。鉄塔の横を通ったりするので、ヘッドランプの明かりを頼りに歩いていると巡視路に迷い込んだかという不安がよぎるが、やがて道は回りこんで再び左に黒四発電所が現れ、回り込みながら高度を稼いでいただけであるのがわかる。少しづつ明るくなりつつある断崖の道を注意しながら進んで行くと、S字峡、続いて半月峡と過ぎていき、ゴルジュの急流も迫力がある。明るくなってくるにつれて紅葉が鮮やかさを増してくるが、対岸上方の宿舎の灯はまだ輝いている。やがて左に急流で落ちてくる沢が見え、立派な滝だなと思っていたら、吊橋の上に出てそこは十字峡であった。
十字峡の景観は下の廊下の代表的な景観とされているだけあって素晴らしい。岩の上に降りてこの風景をしばらく堪能する。黒部川本流の水はエメラルドグリーンだが、ここに流れ込む剱沢の水の青いこと。本当に透き通った色で水量も多かった。十字峡には5張りほどのテントがあったが次々と撤収しているところであった。我々も白竜峡を目指して出発する。朝日が高くなり、上方の紅葉の山肌が日に照らされる様になり目映いばかりに輝きはじめる。白竜峡にさしかかると、最初は白いゴルシュの間をゆったりと流れる淵の様だが、空中にかかる丸太2本の桟道で大きな岩を回り込むと怒涛の急流が現れた。なるほど白竜峡である。やがて、だんだん谷も明るくなり、時折見える後立山の稜線の雪の輝いているのも見えるようになると、程なく明るい雰囲気の黒部別山谷に到着した。新越沢を見るころにはすっかり谷の中まで日が射し込む様になり、昨日より遥かに濃い青空と、朝の光でキラキラと輝く紅葉に彩られた山々は燃える様で、これから内蔵助谷までの間、満腹状態までに堪能した。特に大タテガビンや、丸山東壁の偉容と紅葉と青空の組み合わせは最高の思い出となった。また、晴天のもとTシャツ1枚での山行に変わっていた。この時期これだけ条件のいいのは本当に恵まれていると思った。そして、最後の締めくくりは黒四ダムからの急登であるが、2日間の素晴らしい景観のあとのハイな状態でもあるので、結構調子良く登りきり、そこで初めて銀色に輝く立山連峰を見て山行を終えた。

本文中の写真(順に)

  • 十字峡
  • 大タテガビン付近の紅葉
  • 紅葉の黒部別山

    記録

    日 程

    97年10月18日(土)〜19日(日)

    天 候

    10月18日 晴れ時々曇
      25日 晴れ

    コース

    1日目 欅平から阿曽原・東谷出合
    0943 欅平駅 → 1030 水平歩道 → 1200 志合谷 → 1325 オリオ谷 → 1500/1515 阿曽原小屋 → 1610 仙人ダム → 1625 東谷出合
    2日目 東谷出合から黒四ダム
    0450 東谷出合 → 0540 半月峡 → 0640/0710 十字峡 → 0830 白竜峡 → 0855/0905 別山谷出合 → 0940/0955 新越沢出合 → 1115/1155 内蔵助谷出合 → 1240/1245 黒四ダム下 → 1315 ダム駅

    紅葉を纏う丸山東壁