蝶ヶ岳

 長塀の頭 2,677m 三角点 2,664m 蝶槍
山域:北アルプス
2002.5.2.〜3.



いろいろと山の本を読み重ねるうちに、久しぶりに、しっかりと山に登ってみたいと思い、2日で行って来られそうな蝶ヶ岳に的を絞りました。単独でなおかつ体力に自信の無い今、雪の道を登るのは、このあたりが限界かなと思ったこともあります。
また、思い立って一週前にバスの予約をすれば、空いているとのこと。ゴールデンウィークも1日ずらせばまるで混雑が違うということも体感した山旅でした。

1日目

上高地に向かう夜行バスは今回初めてのトライである。急行アルプス+松本電鉄+バスのルートは夜中に乗換の移動があるので、直行で早朝に到着できる「さわやか信州号」を選んだのだ。都庁前から出発したバスは2台で出発する。途中、談合坂で休憩のあと、勝沼から一般道に降り、諏訪のおぎのやで休憩。休憩の度にマイクで案内があるが、案内が無ければそのまま寝ていけるのにと思う。沢渡に5時過ぎに着き、ここで路線バスタイプの車両に乗換えて上高地へと入っていった。
今日は朝から素晴らしい快晴である。バスターミナルで登山届を提出し、運動靴のまま、靴をザックからぶら下げて歩き始める。河童橋で焼岳の勇姿を振り返り、滔々と雪解け水を湛える梓川を見ていると、さらに楽しくなってくる。多少迷いはあっても、現地にくればすべてうち消してくれて、すっかり気分は山モードになるものだと思った。
まだ朝の早い道は往く人もまばらで、ただひたすら横尾を目指して進む。下山してくる人は皆良く日焼けしている。明神岳の勇姿を見ながら進むと、徳沢手前の坂道あたりで常念岳が見えてくる。その右にこれから目指す蝶ヶ岳もある。徳沢から横尾への道に入ると、斜面から落ちてきた雪が、所々道に乗るようになり、歩きづらくなってきた。屏風の頭を左に見ながら行くと、冬装備に冬靴をつり下げたザックが、そろそろ肩に食い込んできて気になり始める。横尾で朝食ということにしているのでもうひとがんばり。横尾尾根の末端がやっと見えてくると、まもなく横尾に到着した。ここは雨の記憶しか無かったのだが、今日は明るい風景であった。
横尾で簡単な朝食と準備を整え、蝶ヶ岳への道へと入って行く。すぐに急坂が始まり、地面は雪が出たり乾いていたりである。中途半端な残り方なので、歩きづらいと思いながら高度を上げていく。早くも腰が悲鳴を上げ始めるのは、久々の重荷と不安定な足場のせいだと承知はしているが、長い登りを考えると先が思いやられてくる。すれ違う人にこれから先の状態を聞きながら行く。ある程度進むと、ずっと雪に埋まるらしい。早くそこまで行きたい。僅か30分の歩きでもう疲れてしまったので、休むついでに冬用下着を脱いで、普通の夏山スタイルになる。そして持っていたピッケルにラッセルリングを付けて、ストック代わりとした。
この登りはずっと遊びが無く、ひたすら登るのみ。現在地とか残りの標高差とかは表示は無く、背後に見える横尾尾根のピークや屏風の頭あたりを見て判断するしかない。2度ほど背後に開いた空間から槍の穂が見えるところがあった。2000mを過ぎたあたりだろうか。このあたりはしばらく土の道になっていたが、再び雪の登りになると、もうずっと続きそうなのでアイゼンを付けた。別に無くても登れるのだが、滑りを少しでも少なくして疲れを押さえたいのであった。
ここからはずっとシラビソやコメツガの針葉樹林帯である。特にアクセントがある訳でなく、ひたすら登りが続く。とにかく高度を稼がねばとしばらく頑張ってみるが、やがてその足もパッタリととまってしまう。少し歩いては休みという感じで、標高2400mの標識を発見。あと200mくらいだと少し気分も楽になった。
しかし、少し進んだものの再びガソリン切れで、ゆっくり腰を落ち着けて行動食でもとって気分転換することにした。再び出発してもいつ果てるとも無く、まだまだ樹林帯が続く。時折木々の切れ目から見える長塀の稜線などから、そろそろ稜線も近いことがわかる。そして、少し木々が疎らになると、突然という感じで森林限界に出た。背後には、槍から穂高への稜線がカールに雪を湛えてずらっと並び、その南には乗鞍岳が大きい。蝶の稜線は森林限界のすぐ上にあり、あとは僅かな登りである。そして意外なことに、稜線には雪が全く無かったのであった。ここまで横尾から4時間半。コースタイムの3時間20分を大幅にオーバーしてしまった。
稜線に出たところで、空身になって蝶槍を往復する。三角点まで行くとその向こうに常念岳が見えてくる。大きな山だが、常念乗越からの登りがきつかったとことを思い出した。さらに緩やかに下って蝶槍に登る。ここから常念までは多少雪も着いているが、快適に歩けそうだ。その向こうには大天井岳から燕への稜線があり、その左奥には平坦な稜線上にピークが見えるが、野口五郎岳あたりだろうか?もちろん槍も北鎌尾根を従えて大きく見えていた。
展望を楽しんだあとは、横尾分岐まで戻り、蝶ヶ岳ヒュッテを目指す。槍穂の連峰を見ながらの、稜線漫歩だが、さすがにここまでの登りで疲れていたので、稜線牛歩になってしまっている。一旦下ってゆったりと登り返せば、すぐ先に蝶ヶ岳ヒュッテが見えてやっと到着。久しぶりに良く歩いたなという気のする1日であった。
受付を済ませて少し休んだあと、ヒュッテの前のベンチで食事をしながら穂高連峰を眺める。残念ながらかなりの部分に雲がかかってしまい、美しい夕景というわけにはいかなかったが、しばらくは、雲間で夕日に照らされる穂高を眺めて座っていた。小屋もすいていて、1人で十分に布団を使うことができたのも良かった。明日からは混雑してくるだろう。

2日目

2日目の朝は快晴で明けたが、残念ながら東の空に雲があったためか、山々は赤く染まらなかった。今日はもう下るだけ。もったいない気もするが、準備をして出発する。まずは長塀の頭に登ってみる。ここに蝶ヶ岳という標識があるが、この稜線の最高点である。蝶から常念への稜線と、谷を挟んだ穂高の峰々、そして乗鞍岳・御嶽と、朝の光の中で、 360度の素晴らしい展望が楽しめた。徳沢に向けての道はしばらくは森林限界上を行き、雪に埋もれた妖精の池あたりから樹林帯に入ってしまう。2重山稜の尾根を緩やかにアップダウンしていき、やがて顕著な登りがあると、長塀山のピークである。特に標識は無いがたぶん間違い無いだろう。ここも樹林に囲まれているが、木が疎らに途切れたあたりから、槍ヶ岳や中央アルプスの山々が良く見えていた。
長塀山を過ぎると断続的な下りとなる。時々木々の無い箇所も現れ、周りの木の梢越しに穂高などが見えるが、概ねは樹林帯の下降になる。途中に1張りのテントがあり、昨日登ってきたが、踏み跡が怪しくなり、時間も遅くなったのでビバークしたとのこと。確かに樹林帯の中など踏み跡の薄いところもあった。そこはちょうど穂高が見える。肩のような場所であった。
以後はひたすら樹林帯の中の歩きとなり、やがてジグザグに下るようになる。そして土が見え始めると、夏道と冬道が交錯してちょっと歩きづらい。それも長くは続かず、一気に徳沢に下るつづら折りの道に入ると雪は全く無くなった。連休初日ということもあり、次々と登ってくる登山者とすれ違いながら、大にぎわいの徳沢に降り立ち、さっそくビールを買い求めたのであった。
さて、上高地バスターミナルへと向かうのみ。どんどん迫り来る観光客と登山者をかき分けながらひたすら進む。いつものことだが、この帰り道は早足になってしまう。疲れた足に鞭追って頑張って歩くこと2時間。小梨平まで来ればあとは僅かだ。最後まで緩めずバス乗り場まで来るとちょうど島々行きのバスが5分後にでるところで、あわてて切符を買ってあわただしく上高地を後にしたのであった。

久しぶりの北アルプスでした。1年半ぶりくらいと思います。何度も見た光景ですが、何回見ても飽きない光景でもあります。今年は雪解けが早く、蝶の稜線は全く雪の消えた状態でしたが、ちょうど晴れの2日間のはまったという形で登れたのもラッキーでした。
上高地から明神あたりは観光客がたくさんでしたが、さらにバスで下っていくと、どんどんバスが満員の乗客を乗せて登ってきます。沢渡駐車場も満杯状態ですし、島々に着いた電車からもたくさんの乗客が降りてきています。大変な混雑です。一方で、連休初日に帰る私としては、松本からの特急も楽に座って帰れましたし、順調に18時には千葉の自宅に帰り着いてしまいました。朝に山の上にいたことを思う と、あっという間という気がしました。

本文中の写真

  • 徳沢付近からの明神岳
  • 横尾からの登りで、槍を振り返る
  • 蝶槍と常念岳
  • 夕刻の雲間の槍
  • 朝の穂高連峰



  • 記録

    日 程

    2002年5月2日(木)〜3日(金)

    天 候

    晴れ

    コース

    1日目
    0555 上高地バスターミナル → 0640/50 明神 → 0735/40 徳沢 → 0835/0920 横尾 → 1350/55 横尾分岐 → 1405 蝶ヶ岳三角点 → 1415/25 蝶槍 → 1440 横尾分岐 → 1520 蝶ヶ岳ヒュッテ
    2日目
    0540 蝶ヶ岳ヒュッテ → 0545/44 長塀の頭(蝶ヶ岳山頂) → 0635/50 長塀山 → 0905/35 徳沢 → 10:25/35 明神 → 1115 上高地BT

    蝶槍よりの常念岳と北の山々


    参考図書・地図 その他のコース
    エアリアマップ 上高地
    日本雪山登山ルート集(山と渓谷社)
    アルペンガイド旧版 北アルプス
    アルペンガイド 上高地・槍・穂高
    25000図 穂高岳
    50000図 上高地
    本文中以外の一般コースは以下の通りです
    ・徳本峠より大滝山を経て
    ・鍋冠山方面より大滝山を経て
    ・三又より
    ・常念岳方面よりの縦走で
    バス
    上高地へは、一般車の乗り入れは不可のため、方法は以下の通りです。
    ・沢渡駐車場までマイカー。バスで上高地
    ・松本より、松本電鉄で島々乗換、バスで上高地
    ・さわやか信州号(新宿・横浜・大阪)から直行
    いずれも時刻・料金等詳細は、アルピコグループを参照下さい。