槍ヶ岳・北穂高岳

 槍ヶ岳 3,180m 大喰岳 3,101m 中岳 3,084m
 南岳 3,033m 北穂高岳 3,106m 屏風の耳 2,565m
 山域:北アルプス

記録
 山行日1997年7月26日(土)〜7月29日(火)
 ルート上高地→横尾→槍沢→槍ヶ岳→南岳→北穂高岳→涸沢→パノラマ新道→徳沢→上高地
 コースタイム1日目 上高地より槍沢ロッジへ
0615 上高地→ 0700/0720 明神→ 0805/0820 徳沢→ 0910/0930 横尾→ 1055槍沢ロッジ(泊)
2日目 槍ヶ岳山頂を経て南岳小屋へ
0545 槍沢ロッジ→ 0615 ババ平→ 0730 天狗原分岐→ 0820 モレーン→ 0900 殺生ヒュッテ分岐 → 0940/1000 槍岳山荘→ 1020/1035 槍ヶ岳→ 1055/1130 槍岳山荘→ 1200/1205 大喰岳→ 1235/1255 中岳→ 1405/1412 南岳→ 1415 南岳山荘(泊)
3日目 大キレットから北穂高岳を経て涸沢へ
0540 南岳小屋 → 0850/0945 北穂高小屋 → 1135 涸沢小屋(泊)
4日目 パノラマ新道を経て徳沢へ
0640 涸沢小屋 → 0645/0655 涸沢ヒュッテ → 0745/0800 屏風のコル→ 0810 屏風の頭分岐 → 0835/0850 屏風の耳 → 0905 分岐→1025/1050 奥又白谷 → 1130 新村橋 → 1145/1210 徳沢 → 1245/1249 明神 → 1323 上高地
 天候1日目:曇り時々雨 2日目:曇り 3日目:雨 4日目:雨のち曇り

槍、穂高。山登りを楽しむすべての人にとって、一度は目標として、また最高の経験として心の中に存在する山である。単独で山を登り始めたころの私にとって、それは遠い別世界の山であった。いつか必ず登りたいが、自分の力では登れない山という位置にあった。その後中央アルプスを縦走し、鳳凰や北岳を登り、剱岳に登頂して、ついにここまでたどり着いた。通算92回目の山行である。

槍ヶ岳

今回の山行にあたり、当初の計画では「上高地〜横尾本谷〜槍ヶ岳〜北穂高岳〜奥穂高岳〜前穂高岳〜上高地」という縦走であった。しかし残念ながら結果としては、台風の余波で北穂高岳で以降を打ち切ることとなった。台風9号は25日の段階では四国沖をゆっくり北に進んでいた。26日は西日本は大荒れの天気であることは間違いなく、またそのゆっくりとしたスピードから日曜日も影響が残ることも予想された。目標の山行にとって最悪のパターンは日本海に抜けてから東進するケースである。但し、そのまま北に抜けてしまうと充分天候に恵まれることも考えられたので出発することとした。松本で友人と合流し電車バスを順調に乗り継いでバスターミナルに到着。今にも降り出しそうな暗い空で、前途が思いやられる。
計画の横尾本谷右俣は雨の為あきらめ、槍沢ロッジに向かった。明神、徳沢と過ぎ横尾から槍沢に入る。槍沢の水流は澄んだ青色で美しい。一ノ沢・二ノ沢と過ぎ傾斜を増していくが、今回は今シーズン初の本格的な山行で、まだ体が出来ていないようで早くも喘ぎ始めた。槍沢ロッジ到着は、まだ11時なので時間的には殺生ヒュッテに向かうことは可能ではあるが、この調子じゃあ途中で行き倒れてしまいそうなので本日の行動を早々に終了してしまう。明日頑張れば、予定の南岳小屋に到着することは可能であるし、台風が気になるのであまり今晩は高く登りたくないということもある。小屋では、談話室で本を読んだりテレビを見たりゴロゴロして過ごした。西日本では交通機関はストップし、台風は四国に上陸しようとしていた。ロッジの外も夕方になるにつれて、雨が本格的に降り始めたようだ。
翌日台風は山陰沖に抜けた。このまま消えてもらえばこの後は快適な山行が楽しめると期待した。雨もあがり青空も時折のぞいてきて、明るい気分である。テント場のある馬場平を通過し、東鎌尾根に登る分岐を過ぎるころから槍沢はU字谷の底を歩くようになり、一気に開けた風景に心を奪われた。しかしそれも一瞬のことでどんどん高度を上げる傾斜に体がついていけなくなって喘ぎ始め、苦しい急登が続いた。氷河公園への分岐のあたりから踏跡が交差する様になり、U字谷の左岸を上がっていくのが一般的な道のようだが、雪渓を挟んだ少し中央寄を通り、雪渓を辿ってモレーンの上に出た。ここまでくると槍が初めて顔を出した。予想以上に大きく眼前にそびえたっており、まさに日本を代表する山々の貫禄を漂わせている。坊主岩を過ぎ、槍岳山荘の直下まで槍を仰ぎながら少しづつ高度を上げていく。すぐ近くに見えていながらなかなか着かないのは、こういう視界の開けた大きな山ならだろう。近郊の山に慣れていると、見えているところはすぐ着くだろうと思ってたかをくくってしまい、実はとてつもなく遠くて途中でこんなはずは....と思いながらダウンしてしまうのだ。今回も見事にはまってしまった。最後の急登を何度も立ち止まりながらやっと登り切って、やっと山荘の前に出る。ずっとはっきりと見えていた槍は残念ながら雲に隠れがちになってしまった。荷物を置いて、槍にとりつく。足はもうぼろぼろに疲れていたのでいきおい腕に力が入ってしまい、腕がつりそうになってしまった。最後のハシゴを登り切って山頂にでる。真っ白で一面乳白色の世界となっており、もちろん山荘も見えないが、あの大きな槍ヶ岳に登っていると思うと感動もひとしおであった。山頂にはしばらく留まるが、一度だけ中岳の方が見えたものの、状況は変わらず穂をおりることとした。そして山荘から時々思い出した様に見える槍を見ながら休憩した。
槍岳山荘をあとにして、今日の目的地である南岳へと出発する。大きく下って登り返すと大喰岳に着く。広い山頂部はいくつかの小さなピークがあった。そして今度はハシゴのある登りを登り返して中岳。ここから下ると鞍部には、中岳の雪原からしみ出してくる雪解け水が流れ出しており、凍るような冷たさの水を楽しむことができた。ここからいくつかピークを巻いたり越えたりして、今日最後の南岳着。時折切れる雲からのぞく黒部をとりまく山々を眺めたあと南岳小屋の降りた。小屋に張り出してあった天気図を見て愕然とした。日本海に出た台風が東に向かって進んでいた。午前中の回復気味の天気にこの後2日間の台風一過の晴天を期待していたのが崩れ去ってしまった。そして夕方から無情の雨となってしまった。

北穂高岳

朝になっても相変わらず雨はやまず霧があたりを覆い尽くしている。選択肢は大キレットに突入するか、横尾尾根を下って槍沢か横尾本谷に降りるかであるが、ここまで来たことだし大キレットは今回の楽しみでもあったので朝一番に南岳小屋を出発した。ごつごつした獅子鼻に見送られ、霧で底の見えない、昨夜からの雨で滑り易く斜面を底まで滑らぬ様慎重に下っていく。ハシゴを2本で底に降りると岩稜の登降が続き、最低鞍部に降り立つ。一気に登って長谷川ピークを過ぎるとやせたトラバースになる。これを滝谷側の下降するところは、スタンスがちょっと見つけにくく、下を見れば果てしなく続く壁になっており緊張した。しばらく下ってA沢のコルに降りてほっと一息で休憩する。ここからは一気の登りで難関の飛騨泣きを通過する。ただ、飛騨泣きは、ガイドブックで目にタコくらい読んでおり、鎖や鉄杭があるということなので、気分的には楽である。滝谷側の斜面はホールドも豊富で信州側は鎖があり、意外と楽に通過できた。ただ、いざ通過する時滝谷側から激しく風雨が吹き付けてきたのには閉口した。さて、北穂への最後の登りは、上の方は霧に隠れて見えないので果てしなく続くように感じられた。最後は息も絶え絶えに小屋に転がり込んだという状態でほっと一息であった。ただ全体を通して霧の中なので、大キレットのたぶん迫力のある全体像がつかめず、ちょっと残念だった。
さて、今日の予定は白出のコルまでだったが、北穂高小屋で天気予報を確認し明日も雨ということだったので、霧の中の岩稜を延々と歩いていっても、労多くして楽しくなかろうということで、涸沢に退散することにした。そうと決まれば南稜をどんどん下る。眼下にはザイテングラードを次々と登って行く人が見える。こっちは撤退しているのにちょっと複雑な気分である。南稜は花のシーズンで、とくにコバイケイソウの群落はすばらしかった。涸沢小屋に入り、小屋の本を読みながら深く深く沈殿した。
翌日はそのまま涸沢を下っていくのもちょっと悔しい気もするので、パノラマ新道を下山することにした。朝のうちは雨が少し残ったものの、標高も低くなりちょっと蒸し暑い様な感じでスタートする。屏風のコルは遠くから見るとすぐ着く様な感じがしたが、なかなかどうして何度も小尾根を乗り越し一向に近づいて来ない。急な雪渓も2度トラバースし、もういいかげん疲れたなあと思うころ、やっとコルに到着した。コルからついでに屏風の耳を往復してみた。真剣にピークハントをするなら屏風の頭まで行くところであるが、また別の楽しみとして耳から眺める。主稜線の方はほとんど霧の中だが、大キレットの底だけ雲の下にでていた。南方に雲が少なく、雲海上に八ヶ岳や南アルプスが頭をだしていた。徳沢への下りの途中にニッコウキスゲの群落があり、満開の花は思わぬ手みやげをもらったような気分だった。奥又白谷にでて、太陽が出てきたので河原でちょっといい気分で休憩する。正面の蝶ヶ岳も頂上が雲の中になっていた。しばらく樹林を下って広くなった道を辿り、賑わう徳沢園に着いて無事下山のビールを飲みバスターミナルに向かった。

本文中の写真(順に)

  • 槍沢より見上げる槍ヶ岳
  • 北穂南稜のコバイケイソウ群落

  • 参考図書・地図
    ヤマケイアルペンガイド 上高地・槍・穂高(1996年6月改訂4刷)
    エアリアマップ 上高地・槍・穂高(1995年版)
    25000図 上高地 穂高岳 槍ヶ岳
    50000図 上高地 槍ヶ岳

    槍ヶ岳山頂
    その他のコース
    燕岳〜大天井岳〜槍ヶ岳(表銀座)
    三俣蓮華岳〜双六岳〜槍ヶ岳(裏銀座)
    新穂高温泉〜槍ヶ岳
    横尾〜涸沢〜北穂高岳
    上高地〜前穂高岳〜北穂高岳
    その他行程により多数
    交通機関
    周辺交通機関の時刻・運行状況については、
    上高地公式ウェブサイトでご確認下さい。


    Nifty FYAMA 投稿文

    槍〜北穂 雨・・・・

    昨年の剱岳以来の北アルプスに出かけました。残念ながら台風の余波の為、天候 には恵まれず、当初計画をかなり変更して行程を短縮してしまったので、小屋で ゴロゴロしている時間が非常に長い山行となってしまいました。
    コース概略は、「上高地〜槍沢〜槍ヶ岳〜南岳〜北穂高岳〜涸沢〜屏風のコル〜 屏風の耳往復〜徳沢〜上高地」です。


    【日 程】97年7月26日(土)〜96年7月29日(火)
    【目 的】槍ヶ岳〜北穂高岳(当初は前穂高岳)
    【天 候】24日 曇・霧 25日 晴のち曇り 26日 曇り時々雨
    【コース】1日目 上高地より槍沢ロッジ
          0615 上高地→ 0700/0720 明神→ 0805/0820 徳沢→ 0910/0930 横尾
          → 1055槍沢ロッジ(泊) 歩行3時間45分
         2日目 槍ヶ岳から南岳小屋へ
          0545 槍沢ロッジ → 0615 ババ平 → 0730 天狗原分岐 → 0820 モレーン
          0900 殺生ヒュッテ分岐 → 0940/1000 槍岳山荘 → 1020/1035 槍ヶ岳
          → 1055/1130 槍岳山荘 → 1200/1205 大喰岳 → 1235/1255 中岳
          → 1405/1412 南岳 → 1415 南岳山荘(泊) 歩行6時間48分
         3日目 北穂高岳から涸沢に下る
          0540 南岳小屋 → 0850/0945 北穂高小屋 → 1135 涸沢小屋
          歩行5時間
         4日目 涸沢から屏風のコルを経て上高地下山
          0640 涸沢小屋 → 0645/0655 涸沢ヒュッテ → 0745/0800 屏風のコル
          → 0810 屏風の頭分岐 → 0835/0850 屏風の耳 → 0905 分岐
          1025/1050 奥又白谷 → 1130 新村橋 → 1145/1210 徳沢 →
          1245/1249 明神 → 1323 上高地バスT 歩行5時間9分
    【山 名】槍ヶ岳3180m 大喰岳3101m 中岳3084m 南岳3033m 長谷川ピーク2841m
         北穂高岳3106m 屏風の耳2565m
    【メンバー 】会社の同僚 Tさんと私の2人
    【山 域】北アルプス
    【参考書】ヤマケイアルペンガイド 上高地・槍・穂高(山と渓谷社)
         昭文社エアリアマップ 上高地・槍・穂高


    1.登山口まで(千葉〜上高地)

    台風9号は金曜日の段階では四国沖をゆっくり北に進んでいた。土曜日は西日本は大荒れの天気であることは間違いなく、またそのゆっくりとしたスピードから日曜日も十分影響が残ることが予想できた。我々の目標の北アルプス山行にとって最悪のパターンは台風が日本海に抜けてから、東進するケースであるが、先のことはわからない。それにこの台風のおかげで、みんな旅行をキャンセルしたのか、当日に夜の急行アルプスの指定席がとれたので、Tさんと松本での合流を確認して出発した。
    深夜の新宿駅は、急行アルプス・アルプス85号・快速電車と立て続けに出発していく。金曜日の夜、台風が無ければ大いにどの電車も混雑するところであるが、今日に限ってはかなり空いている。それでもアルプスだけはそこそこ乗っている様だった。
    甲府あたりから停車の間隔も少なくなり、おまけに検札も回ってきたりで、眠れなくなり松本に到着、四日市から来たTさんに合流した。以降電車バスを順調に乗り継いでバスターミナルに到着。今にも降り出しそうな暗い空で、登山補導所の人が「ずっと晴れていたのですが台風の余波で残念でした....」などと放送していた。

    2.槍沢ロッジへ

    今回の山行は当初計画では、横尾本谷右俣を経て天狗のコルから氷河公園経由で槍沢に降りて、槍ヶ岳に登るというものだったが、台風の余波の中でこのコースはあきらめ、横尾から槍沢ロッジに向かった。明神、徳沢と辿って横尾から山道に入る。槍沢の水流は澄んだ青色で美しい。一ノ沢・二ノ沢と過ぎ傾斜を増していくが、早くも息がもたなくなり先が思いやられる。今回は今シーズン初の本格的な山行で、まだ体が出来ていないようだ。
    やっと槍沢ロッジが見えてきて到着。まだ11時なので時間的には殺生ヒュッテに向かうことは可能ではあるが、この調子じゃあ途中で行き倒れてしまいそうなので本日の行動を早々に終了してしまう。明日頑張れば、予定の南岳小屋に到着することは可能であるし、台風が気になるので、あまり今晩は高く登りたくないというのもある。それにしても、この調子では予定の横尾本谷に行っていれば大変だっただろうなあと思いつつ、談話室で本を読んだりテレビを見たりゴロゴロして過ごした。西日本では交通機関はストップし、台風は四国に上陸しようとしていた。ロッジの外も夕方になるにつれて、雨が本格的に降り始めたようだ。

    3.槍ヶ岳登頂〜南岳

    翌日台風は山陰沖に抜けた。このまま消えてもらえば、この後は快適な山行が楽しめると期待した。雨もあがって、一部青空も時折のぞいてきて、少し明るい気分である。
    テント場のある馬場平を通過し、東鎌尾根にあがる分岐を過ぎるころから槍沢はU字谷の底を歩くようになり、一気に開けた風景に心を奪われたが、それも一瞬のことでどんどん高度を上げる傾斜に体がついていけなくなり、喘ぎ始める。氷河公園への分岐のあたりから、踏跡が交差する様になり、U字谷の左岸を上がっていくのが一般的な道のようだが、左岸とは雪渓を挟んだ少し中央寄を通り、少し雪渓を辿ってモレーンの上に出た。
    ここまでくると槍が初めて顔を出した。予想以上に大きく眼前にそびえたっており、まさに日本を代表する山々の貫禄を漂わせている。
    坊主岩を過ぎ、槍岳山荘の直下まで槍を仰ぎながら少しづつ高度を上げていく。すぐ近くに見えていながらなかなか着かないのは、こういう視界の開けた大きな山ならだろう。関東近郊の山になれていると、見えているところはすぐ着くだろうと思ってたかをくくってしまうと、とてつもなく遠くて、途中でこんなはずは....と思いながらダウンしてしまうのだ。今回も見事にはまってしまった。最後の急登を何度も立ち止まりながらやっと登り切って、山荘の前に出たときには、ずっとはっきりと見えていた槍が雲に隠れがちになってしまった。荷物を置いて、槍にとりつく。足はもうぼろぼろに疲れていたのでいきおい腕に力が入ってしまい、腕がつりそうになってしまった。
    最後のハシゴを登り切って山頂にでると、真っ白で一面乳白色の世界となっていた。もちろん山荘も見えない。しばらくいたが、一度だけ中岳の方が一瞬見えたものの、状況は変わらず穂をおりる。そして山荘から時々思い出した様に見える槍を見ながら休憩した。
    槍岳山荘をあとにして、今日の目的地である南岳へと出発する。大きく下って登り返すと大喰岳に着く。広い山頂部はいくつかの小さなピークがあった。そして今度はハシゴのある登りを登り返して中岳。ここから下ると鞍部には、中岳の雪原からしみ出してくる雪解け水が流れ出しており、凍るような冷たさの水を楽しむことができた。ここからいくつかピークを巻いたり越えたりして、今日最後の南岳着。時折切れる雲からのぞく黒部のをとりまく山々を眺めたあと南岳小屋の降りた。
    小屋に張り出してあった天気図を見て愕然とした。日本海に出た台風が東に向かって進んでいるのであった。午前中は少し天気が回復気味だったので、このあと2日間の台風一過の晴天を予定していたのが崩れ去ってしまった。そして夕方から無情の雨となってしまった。

    4.雨の大キレット

    朝になっても相変わらず雨はやまず霧があたりを覆い尽くしている。選択肢は大キレットに突入するか、横尾尾根を下って、槍沢か横尾本谷に降りるかである。Tさんと顔を見合わせ、行こうという合図を指でしめし、南行きの始発電車となって、南岳小屋を出発した。
    ごつごつした獅子鼻に見送られ、霧で底の見えない(従って高度感の無い)斜面を底まで滑らぬ様慎重に下っていく。やはり、昨夜からの雨で滑り易いが必要以上に慎重になっている。ハシゴを2本で底に降りると、岩稜の登降が続き、最低鞍部に降り立つ。一気に登って長谷川ピークを過ぎると、やせたトラバースになる。これを滝谷側の下降するところは、スタンスがちょっと見つけにくく、下を見れば果てしなく続く壁になっているので、緊張した。先に降りたTさんに、スタンスの場所を教えてもらって下降し、しばらく下ってA沢のコルに降りた。ここからは一気の登りで難関の飛騨泣きを通過する。ただ、飛騨泣きは、ガイドブックで目にタコくらい読んでおり、鎖や鉄杭があるということなので、結構気分的には楽である。飛騨泣きの登り口は、カニのタテバイの登り口に似ていたが、滝谷側の斜面はホールドも豊富で信州側は鎖があり、意外とあれが飛騨泣きだったのかな?って感じで通過してしまった。ただ、いざ通過する時に、滝谷側から激しく風雨が吹き付けてきたのには閉口した。
    さて、北穂への最後の登りである。上の方は霧に隠れて見えないので果てしなく続くように感じられた。最後は息も絶え絶えに小屋に転がり込んだという状態でほっと一息であった。ただ全体を通して霧の中なので、大キレットのたぶに迫力のある全体像(絶景?)がつかめず、ちょっと残念だった。
    さて、今日の予定は白出のコルまでだったが、北穂高小屋で天気予報を確認し明日も雨ということだったので、霧の中の岩稜を延々と歩いていっても、労多くして楽しくなかろうということで、涸沢に退散することにした。相前後して大キレットを越えてきた2人組も、白出のコルまでの予定だったが、涸沢岳を越えていく岩稜歩きはもう大キレットだけで充分ということで、涸沢経由ザイテンという経路をとることにした様だ。すごいパワーである。そうと決まれば南稜をどんどん下る。眼下にはザイテングラードを次々と登って行く人が見える。こっちは撤退しているのにちょっと複雑な気分。南稜は花のシーズンで、とくにコバイケイソウの群落はすばらしかった。
    涸沢小屋に入り、小屋の本を読みながら深く深く沈殿した。

    5.パノラマ新道で下山

    そのまま涸沢を下っていくのもちょっと悔しい気もするので、パノラマ新道を下山することにした。朝のうちは雨が少し残ったものの、標高も低くなりちょっと蒸し暑い様な感じでスタートする。屏風のコルは遠くから見るとすぐの様な感じがしたが、なかなかどうして何度も小尾根を乗り越し一向に近づいて来ない。急な雪渓も2度トラバースし、もういいかげん疲れたなあと思うころ、やっとコルに到着した。コルからついでに屏風の耳を往復してみた。真剣にピークハントをするなら屏風の頭まで行くところであるが、また別の楽しみとして、耳から眺める。主稜線の方はほとんど霧の中だが、大キレットの底だけ雲の下にでていた。ただ、なぜか南方に雲が少なく、雲海上に八ヶ岳や南アルプスが頭をだしていた。
    徳沢への下りの途中にニッコウキスゲの群落があり、満開の花は思わぬ手みやげをもらったような気分になった。奥又白谷にであって、すこし太陽が出てきたので河原でちょっといい気分でトカゲをする。正面の蝶ヶ岳も雲の中になっている。しばらく樹林を下って広くなった道を辿り、賑わう徳沢園に着いて、無事下山のビールを飲みバスターミナルに向かった。徳沢からバスターミナル間は、電車の時間もあり急ぎに急いだ。徳沢を12時15分に出て、上高地発13時30分のバスに乗り込めたのは、なかなかのものだと思った。

    結局4日間、ほとんど天候に恵まれずじまいでした。また、今回は今シーズン初めての夏山登山で、しかも一気に登っていったため、息がもたず結構四苦八苦しました。もっと体力を向上させないと、なかなか次ぎのステップに行けないなあと思っているところです。さて、次ぎはどこにしようかな。