子ノ泊山

907m
山域:熊野山地
2000.3.20


今回の東紀州の山の最終日は和歌山県境の熊野川に沿った子ノ泊山とした。期待に違わず素晴らしいコースだったが、山頂付近までのびてしまった林道は、秘境の雰囲気が濃かっただけに、少し残念だった。
このあたり一帯の山は蔵光山と呼ばれており、その主峰が子ノ泊山ということである。その名前から子年には大変賑わったということらしい。


昨日の雨は夜半に上がったが、その後突風が吹くほど風が強くなった。夜が明けると、昨日とは、うって変わっての快晴で心は躍る。浅里コースの登山口の前に車を置き、早速山道に入ると、すぐに道は西谷に沿った道となり、清々しい流れに沿った幽玄美の道となった。あまり歩く人は多くないのか、道にある岩は苔むし、自然の色濃いコースである。このあたりの岩は、採石場や林道の切り開きなどもすべて柱状節理の幾何学的な断崖となっており、沢の流れに削られた壁まで同じ様な形で、転がっている岩も角がとれて丸くなっているが、大きさがかなり揃っているのも面白い。しばらく進むと、道は左岸に渡り再び右岸に渡り返す。その後、苔むした石の多い道から、普通の植林地の道に変わり、若干流れから離れたり、高巻いたりしながら進む。歩き始めて1時間弱で道は大きな衝立状の壁に突き当たる。左手に立派な滝が落ちてきており、落下点からしばらく眺めていた。あたりは蕗のとうがたくさん出てきており、すでに春になっていることを実感した。
滝からは右手の山彦新道の看板に沿って、衝立の岩の横の急登を木に掴まりながら登っていく。登り着いたところは痩せた尾根上のところで、さらにグイグイと急登が続く。一歩一歩こなして行き、自然林に入れ替わったころ、一旦トラバース気味に平坦な道になり、それから、「これでもか!」というほどの急登が待っていた。それほどの距離では無いが、胸を突くような急登は浮き石も多く、落石には充分注意する必要がある。
稜線に近づくあたりから風も強くなり、騒然とした雰囲気となった。登り切ったところは、ヤケーの頭の先端で、眼下に熊野川の広い流れがうねっているのが眺められた。ここまで登ると傾斜は無くなるが、今度はナイフリッジとなる。両側が切れて、部分的にはつかまる木が無い所もあり、突風に吹かれて恐怖感さえ感じるような所であった。岩場を過ぎると常緑樹のゆったりとした尾根となり、やがて主稜線に合流するが、滝からここまでの約40分は、なかなか峻険な道であった。
稜線に出てからは、いくつかのピークのゆるやかな登り降りを繰り返していく。ピークでは顕著な尾根も合流してくる。そのような箇所をいくらか過ぎたあと、なんと稜線直下に車道の切り開きが現れたのは驚きだった。林業作業のためとも思われるが、もったいないことだと思った。山頂直下までの2〜3のピークを車道と合流しながら進み、最後の急坂を登れば、展望の素晴らしい、熊野灘を眺める一等三角点の山頂であった。
紀宝町の建てた立派な看板のある山頂で、海を見ながらコーヒーを沸かしているうちに、すっかり風も弱くなり、穏やかな春の日となった。下山はもとの道を引き返すが、行きに強風だったナイフリッジは、無風であれば問題なく通過し、急斜面を木々に掴まりながら下っていく。部分的にヒメシャラが群生しており、艶めかしい。時折り椿の花咲く道を、衝立の滝まで下る。滝の上部を上から覗いてみると、さらに上の方に滑めが続いているようだ。行きに見落としたもう一つの滝は、登りで右岸に渡り返したあたりの左手にあった。ここは白布を垂らしたような滝で、滝ノ下まで行ってゆっくりとながめた。日が昇り、日差しが谷まで差し込むようになって、美しい滝にふきのとう、そして山にこだまする鶯の鳴き声と、まったく春の山の雰囲気はとても解放的である。最後に西谷の谷筋を歩きながら、このコースの良さを、いつまでも保って欲しいと思った。



記録

日 程

2000年3月20日(月)

天 候

晴れ

コース

0640 浅里登山口 → 0730/35 衝立岩の滝 → 0810ヤケーノ頭 → 0840/0915 子ノ泊山山頂 → 0935 ヤケーノ頭 → 1010/20 衝立岩の滝 → 1105 登山口

明るい子ノ泊山山頂


参考図書・地図
三重県の山(ヤマケイ)
三重の自然を歩こう(伊勢文化舎)
25000図 
50000図