那須岳

 甲子山 1,549m 笠ヶ松 1,638m 須立山 1,720m
 三本槍岳 1,916.9m 朝日岳 1,896m 茶臼岳 1,915m
 日の出平 1,786m 南月山 1,775.7m 黒尾谷岳 1,589m
 山域:那須

記録
 山行日1999年7月31日(土)〜8月1日(日)
 ルート新甲子鉱泉→甲子山→坊主沼避難小屋(泊)→三本槍岳→茶臼岳→南月山→あけぼの平
 コースタイム1日目 新甲子温泉から甲子山を経て坊主沼避難小屋へ
1135 新甲子温泉 → 1230/1235 甲子温泉 → 1350 猿ヶ鼻 → 1452/55 甲子山 → 1510/45 水場 → 1635 坊主沼避難小屋(泊)
2日目 三本槍岳から南月山へ那須連峰縦走
0505 坊主沼 → 0550/55 笠ヶ松 → 0615/25 須立山 → 0715/30 三本槍岳 → 0840/50 朝日岳 → 0915 峰の茶屋 → 0920/55 茶臼岳分岐 → 1025/35 茶臼岳 → 1100 牛ヶ首 → 1115/25 日ノ出平 → 1145/1200 南月山 → 1255/1305 黒尾谷岳 → 1355 もみのき台(下山) → 1440 あけぼの平
 天候晴れのち時々曇り(両日とも)

関東の北端にある那須連峰は、縦走しようとするとどうしても2日行程になり、アプローチが容易なわりに、ずっと足が向かなかったが、梅雨明け直後の晴天続きの日に、ちょうど2日間のフリーな日が得られたので、思い切って出かた。お約束通りの最高の天気に恵まれいい山行となった。

甲子山

那須連峰への入山は、福島県側の甲子温泉から入る。さらに北には大白森山などが繋がっているが、行程が組みにくいので今回は割愛した。普通電車を乗り継ぎ、新白河から新甲子温泉行きのバスにのる。登山口の甲子温泉まではさらに1時間の車道歩きである。広い道をまっすぐ進むと新道の方で、トンネルをいくつかくぐって進んでいく。計画中の甲子トンネルに向けて高度を上げていくので、最後の長いトンネルを出ると、ジグザクに大黒屋のある旧道終点に向けて急降下していくこととなる。旧道の方は阿武隈川に沿う細い車道らしいが、そちらの方が風情があるかもしれない。
大黒屋の前を通り、眼下に川沿いのプールのような温泉を見ながら進んでいく。ここはもう車の入れる道では無いが、国道289号の看板がある。登山道に入ってから、再び国道の看板が出てきたのには少々驚いた。甲子峠〜甲子温泉間の山道も国道扱いになっているのだろうか。
甲子温泉から猿ヶ鼻までは、斜面をつづら折りに登る道である。急ぐ行程でもなく、ゆっくり登るが、久しぶりの重荷を背負っているので、足が前になかなか出ていかず、休み休みになってしまう。登っていくにつれて、折り返しが短くなってくる。蒸し暑かった林も気持ちだけ明るく涼しくなってきてやがて緩やかな傾斜で尾根を登るようになると、猿ヶ鼻の看板が現れた。ここからはゆったりした尾根道になり、左側に樹間に時折旭岳の遥かに高く聳えているのを見ながら進んでいく。甲子峠への分岐を右に分けると道は傾斜が増し、甲子山への登りとなる。登りついた山頂は狭いが展望が良く、大白森山などの那須の北端の山々や、これからの行程をしばらく共にする旭岳が雄大に眺められた。
甲子山からは今日の宿泊地である坊主沼避難小屋に向かう。旭岳の雄大な姿を眼前にして、背丈の低い灌木の間の道を行き、下り着いた鞍部は不思議な感じの暗いブナ林だった。鞍部を過ぎ、ゆるやかな登りをしばらく歩くと、急登になる手前に立派な水呑場という看板があり、右に下っていく道があった。5分ほどで水場に着き、乾いた体に水を思う存分補給することができた。ここが縦走路中唯一の水場である。
水場からは旭岳の北側の尾根を乗り越す急坂となる。急な土の斜面を、張られたロープや灌木に掴まって高度を上げていく。登り着いたところは、旭岳の北側の尾根の末端で旭岳への登り口でもある。但し、ロープがはられており、行き止まりの看板がかかっていた。避難小屋のノートには、自然保護指導員の方が、危険並びに自然保護の観点より旭岳に登らないで欲しいということを、おりに触れて強調されていた。
今度は緩やかに旭岳の東側山腹の巻き道を辿っていく。笹が刈り払われた道で斜めになった道のうえに、刈り払いの根本を踏みながらの歩きなので、多少滑りやすい。道は1600mを超えると今度は緩やかに下りになり、開けた道はやがて森の中へと下っていくと、旭岳の南側の尾根に抱かれるように囲まれた坊主沼まであと少し。赤い屋根が見えてきて、程なく避難小屋に到着した。誰もいない小屋で、窓を開けて空気を入れ替え、坊主沼でオタマジャクシや水生昆虫を眺めたあと、備え付けのノートに書き込み、パラパラと読みながら時間が経っていく。板の間に横になると、ちょうど窓越しに旭岳の山頂が位置していた。マットを出してシュラフにくるまり、日が暮れるとともに、灯りを使うことなく眠りについた。朝まで1人だった。

三本槍岳

連峰の最高峰は三本槍岳である。名前からは三つの鋭いピークを連想させるが、名の由来は会津・白河・黒羽の三藩が、境界を確認してここに三本の槍を立てたことによる。連山の縦走の前半の一区切りとして、まずはこの山を目標とした。
一人の山小屋の朝は、自由気ままである。4時を過ぎるとだんだん明るくなり、目の前の旭岳の山頂が朝日に照らされ始めたので、ゆっくりと起きあがった。さっそく準備を整え出発する。旭岳の南側の尾根を乗り越すべく、再び高度を上げていくと、ここも昨日の巻き道と同様、斜面の笹を刈っただけの道なので、足下が斜めで朝露に濡れた笹の根本を踏む道であり、滑りやすく何度も転んでしまった。笹をかき分け登り着いた尾根は、こちらからも旭岳立入禁止の看板があった。主稜線に出ると道は断然歩きやすくなり、明るくいい道をゆったりと登って笠ヶ松の頂上に立つ。頂上には名前の通り松の木があって、風が通り気持ちが良い場所で、朝方には頂上に雲がかかっていた三本槍岳の方向や、三倉山大倉山もすっかり霧が晴れて青空に美しい姿を見せていた。
次の須立山は見た目の通り石のガラガラした急な登りで、途中からロープにつかまって、体を引き上げる様な道になる。登りきった須立山の山頂は、ここも360度の展望があり、益々三本槍岳の大らかな山頂が近くなってきた。振り返れば、旭岳が大きく、こちらは凛々しく大きな鳥が翼を広げたような山である。そして、眼下に鏡沼も見えてきた。
明るい尾根道を進み、鏡沼への分岐を過ぎて三本槍岳への登りにかかる。急登というほどではなく、時折掘れたような段差がある道である。大峠分岐で一息ついて、一登りで今回の最高峰となる三本槍岳山頂に着く。山頂からは那須連山はもちろんのこと、日光や尾瀬の山々が展望でき、それらの山々は青空のもと、雲海の上に勢揃いしていた。

朝日岳

連峰の中で最もアルペン的な様相を呈するのは朝日岳周辺である。特に峰の茶屋からの勇姿は、岩が茶色っぽいところを除けば北アルプスの岩稜を見ているような雰囲気がある。そして、三本槍岳から向かうと、ここから茶臼岳までは登山者や観光客も多い那須の核心部に入ることとなる。
早朝とはいえ、すれ違う人が断然多くなってきた。穏やかな道を登り返してスダレ山を巻き、北温泉の分岐を経て、清水平に降りる。湿原状の清水平は一筋の水が流れていた。今度は木道の整備された道を、熊見曽根の北の1900m峰に登り返していく。そして、岩がちの道を進み、隠居倉への分岐を分けて朝日岳の分岐に降り立った。この間は、短いとはいえ登り降りが連続し、疲れが溜まるところであった。
分岐に荷物を置き天に飛び出したような、朝日岳の山頂を往復する。山頂の展望は素晴らしく、茶臼岳が草木のない山頂部を大きく見せ、一方では今まで歩いてきた、三本槍岳からの穏やかな稜線が美しく、那須連峰の核心部のちょうど中心にあって、那須のいろいろな山頂を見るには最もいい場所かもしれない。まわりの歓声につられて、展望に感動したことであった。三本槍岳の横で、旭岳が目立って自己主張しているところも面白い。実は連山の中で、最も個性的な山かもしれない。

茶臼岳

茶臼岳はなんと言っても那須の顔である。今なお噴煙を上げ、那須火山帯の名前を再認識する。ここはロープウェイからわずかの登りで達することができる山頂でもある。
朝日岳から峰の茶屋までは、荒々しい岩稜の様相であり、岩塔や岩肌をあらわにしたピークを巻きながら下っていく。峰の茶屋には茶屋がある訳ではなく、立派な避難小屋がたっている。しかし休んでいる人や団体も多く、売店でも開いたら繁盛するかもしれない。ごった返す峰の茶屋の先の、茶臼岳の分岐になる稜線のベンチは、風があるが気持ちのいい所で、ここで大休止した。茶臼岳は、終始蒸気機関車のような音を立てて、たくさんの噴気口から蒸気を吹き上げていた。また、このあたりから見る朝日岳はなかなか見応えがある。ニセ穂高の異名も頷けるところである。
ゆっくり休んだあと、茶臼岳の山頂に向かう。岩礫の積み重なった道を、ゆっくり登っていくと、山頂部を回り込むようにして高度を上げていく。南面に出ると、眼下にロープウエイ駅の駐車場が大繁盛である。やがて、火口壁に登り詰め、ロープウェイからの道と合流すると、かなり観光客の世界になってくる。駅からも1時間はかからないであろう。山頂にいると、西側から霧が吹き上がってくるが、無限地獄からの蒸気も上がってきているようで、かなり硫黄臭がある。ごった返す山頂は、さっさと退散するとして、下山は牛ヶ首に直接下ることにする。ガイドブックに視界が良ければ下ることが出来ると書いてあったので挑戦してみた訳である。しかしどこをどう間違えたのか、かなりの急傾斜の、山頂の下の岩場を巻いて下ると、岩屑で埋まった急斜面が延々と続き、立つそばから足下が崩れていく。果てしなく下に見える道に落石を起こさぬように、様慎重に下るしかない。途中から牛ヶ首の上方に回り込むと、結構な音も立てて足元の岩屑が崩れるので、休んでいる牛ヶ首の人たちにはきっと、「あんなところを歩きやがって....」なんて思われているかもしれない。なんとか牛ヶ首からの尾根上にでると、かすかにペンキがあり安定していたので、違うコースを歩いてしまったかもしれないが、見上げても歩きやすそうな場所はなく、視界が良くても下るべき場所ではないと思った。峰の茶屋まで戻って巻き道を歩くことを強くお勧めする。その方が無限地獄などを、間近に楽しめていいし、安全である。
牛ヶ首で休んでいる人の前で止まると視線が怖いので、そのまま南月山に向けて直進していったのであった。

南月山

茶臼岳から見た南月山は、緩やかな傾斜の草原のようであった。今までの岩稜や岩屑の山とは対照的な南月山は、また花の山でもあるらしい。
日の出平への登りにかかると、かなり日差しが強くなっており、ジリジリと焼けるような暑さである。日の出平は平坦な山頂で、広々とした尾根が南と西に続いている。南月山へは、緩やかな下りとわずかな登りである。振り返ると、日の出平から西に続く尾根が青空と笹の緑と横一直線の尾根とで、美しい光景を見せていた。日が高くなってきており、空にはガスがかかりはじめた。南月山の山頂はちょうど昼時で数人の登山者が休んでいた。広々とした山頂の傍らの岩の間に三角点と祠があった。展望はガスに遮られてしまったが、のんびりとした雰囲気のいいところであった。
南月山からは本格的に下りとなり、樹林の中草花の咲く道をを高度を落としていく。途中左側の大きな崩壊が道のギリギリまで来ていて、もう少しで崩れそうで気持ちが悪い。下るにしたがって、黒尾谷岳のどっしりとした体が大きく視界に塞がってくる。登りかえすかと思うと、気が重くなる。登り口でゆっくり休んで鋭気い登り始めると、取り越し苦労であっさり10分程度で登り着いてしまった。それもそのはず、標高差は90mくらいなのであった。気持ちが実際以上に山を大きく高く見せたのかもしれない。
道沿いに山頂を示す看板がかかってはいるが、分岐する踏み跡があったので入ってみると、そこにも大きな岩があって、山名の標識があった。うっかりすると、見過ごすかもしれないと思う。黒尾谷岳からはひたすら下るのみ。急坂を下ると、しばらく傾斜が緩やかになる。ここまで約30分。さらに急坂のつづら折りになり、やがて道はどんどん右方向に進むようになる。この間カラマツと広葉樹の混じった雰囲気のいい森がずっと続く。別荘の上部が見え始めると、舗装路も近い。
別荘地にでてからは、基本的には大きくジグザグをきるメインの車道を辿る。かなり遠回りになるので適当にショートカットしたが、本来は関係者以外立ち入り禁止である。この下りは歩き疲れた足にはなかなか厳しく、あけぼの平のバス停までは、ゆっくり車道を辿ると1時間をみておいた方がいいかもしれない。
あけぼの平にでるとバス停が無いので、前にあるミニマートコバヤシでバスの時刻と位置を聞いた。いずれにしても、店の前がバス停らしい。バスまで約50分。15時30分のバスまで、店の中で休ませてもらい、コーヒーを入れてもらった。この店では、その様なサービスをしてくれるので、下山して時間があれば立ち寄られるといいと思う。店で買ったビール500mLは、水に飢えた体にあっさり吸収されてしまったので、今度は500mLのジュースを買って一気に飲み干したのであった。

静寂の北部と、派手な中央部と、穏やかな南部の3つの表情の那須を楽しんだ2日間だった。中央部の3つの山は、それぞれが特徴的で面白い。東京からのアクセスも良く、素晴らしい山々なので、今度は三倉山や、大白森山などにも足をのばしてみたいと思う。ちなみに、あけぼの平はバスは1日6本だが、13時50分頃と、15時30分頃といった、いい時間にあるので、充分利用できると思う。

本文中の写真

  • 須立山からの旭岳
  • 穏やかな三本槍岳(南面より)
  • 峰の茶屋付近からの朝日岳(ニセ穂高)
  • 牛ヶ首からの茶臼岳

  • 参考図書・地図
    アルペンガイド 奥日光・足尾・那須(1993年7月改訂2刷)
    エアリアマップ 那須・塩原(1999年版)
    25000図 甲子山 那須岳 板室
    50000図 田島 那須岳

    牛ヶ首からの茶臼岳
    その他のコース
    縦走路に至る沢山のコースがありますが、
    最も賑わうのは、那須温泉郷からロープウェイを利用して、
    茶臼岳・牛ヶ首に至るコースです。
    交通機関
    甲子方面は、白河駅・新白河駅から高原ホテル前行き
    終点下車。
    福島交通でご確認下さい。
    あけぼの平は、黒磯駅からハイランドパーク行き
    あけぼの平下車。
    東野交通でご確認下さい。
    当時より本数がかなり減っています。


    Nifty FYAMA 投稿文

    甲子〜那須〜南月山縦走

    ちょうど2日間のフリーな日が得られたので、どうしようとあれこれ考えた結果日帰りでは今一つ難しい、那須に行くことにしました。梅雨明け後の天候は、お約束通りの最高の天気でちょっと暑いという点を除けばなかなかいい条件だったと思います。でも、現時点では体力的にはこのあたりが限界のようです。

    【日 程】99年7月31日(土)〜8月1日(日)
    【目 的】那須連峰縦走
    【天 候】晴れのち時々曇り(両日とも)
    【コース】07月31日
         1135 新甲子温泉 → 1230/1235 甲子温泉 → 1350 猿ヶ鼻 →
         1452/55 甲子山 → 1510/45 水場 → 1635 坊主沼避難小屋(泊)
         8月1日
         0505 坊主沼 → 0550/55 笠ヶ松 → 0615/25 須立山 → 0635 鏡沼分岐
         → 0700/05 大峠分岐 → 0715/30 三本槍岳 → 0840/50 朝日岳 →
         0915 峰の茶屋 → 0920/55 茶臼岳分岐 → 1025/35 茶臼岳 →
         1100 牛ヶ首 → 1115/25 日ノ出平 → 1145/1200 南月山 →
         1255/1305 黒尾谷岳 → 1355 もみのき台(下山) → 1440 あけぼの平
    【山 名】甲子山 1549m 笠ヶ松 1638m 須立山 1720m 三本槍岳 1916.9m
         1900m峰 朝日岳 1896m 茶臼岳 1915m 日の出平 1786m
         南月山 1775.8m 黒尾谷岳 1589m
    【メンバー 】単独
    【山 域】那須
    【参考書】ヤマケイアルペンガイド 奥日光 足尾 那須
         2.5万図 那須岳
         エアリアマップ 那須・塩原

    1.甲子温泉へ

    那須は東京から比較的近いのだが、欲張って縦走しようと思うと、どうも1日では難しい。せいぜい車で早朝に入って、三本槍岳〜茶臼岳の間を歩くくらいが限界だと思う。しかし、それだと同じ所を行ったりきたりという格好になってしまうし、まだまだ行きたい頂上はたくさんあるので、どうせならもっといろんな所を歩きたい。といった訳で、2日の山行が可能なことになった時、時節柄暑い関東南部は避けて、いくらか涼しいだろうと考え、那須に行くことにした。行きは甲子温泉に2番目のバスである。在来線でいけばこれが限界で、新幹線なら朝1番のバスに乗ることも可能である。ちなみに、バスの時刻はJTBの時刻表には、新白河駅の時間が載っていない。従って白河から乗車するものだと思い、計画していたが、前日最後のチェックで自宅で弘済出版社のものを見ると新白河駅で乗れることが判明。これで朝の電車を1時間弱遅らせることができた。一瞬新幹線で行って、旭岳往復に挑戦したあと、避難小屋に向かおうというプランも考えたが、自重する。思いめぐらすことはいくらでもできるが、実行は難しいものである。
    早朝幕張本郷駅へ行くと、この時間には珍しく若者が多い。それもそのはずで、GRAYの20万人コンサートの日であった。上野発7時36分の宇都宮行きに途中から乗る。宇都宮、黒磯と乗り継ぎ、新白河ではバスに5分程度の接続である。あまりに接続がいいので、駅員にバス停の場所を確認してから急いだ。慌ただしかったので、途中で水を補給するタイミングを逸してしまったのは失敗である。
    バスは30分強で新甲子温泉に着く。登山口の甲子温泉へはさらに1時間の車道歩きである。大黒屋の看板があったので広い道をまっすぐ進んだがこれは、車用の看板で、辿ったのは新道の方だった。いずれにしろ登山口に着くことは着くのだが....新道は広い道をトンネルをいくつかくぐって進んでいく。トンネルの中はむしろひんやりして気持ちがいいのだが、この道はやがて出来るであろう甲子トンネルに向けて高度を上げていくので、最後の1km超の長いトンネルを出ると、ジグザクに大黒屋のある旧道終点に向けて急降下していくこととなる。旧道の方は阿武隈川に沿っていくらしいが、歩くとどう感じるかは不明である。
    さて、道は大黒屋の前を通り、離れの門をくぐって、眼下に川沿いのプールのような温泉を見ながら進んでいく。ここはもう明らかに車の入れる道では無いが、国道289号の看板がある。山道に入るとすぐ堰堤があるので、しかたなくここで水を補給。あまりいい水では無いと思うが甲子山の先の水場までの繋ぎとして持っていくことにする。このあたりはもう普通の登山道であるが、再び国道の看板が出てきたのには少々驚いた。甲子峠〜甲子温泉間の山道も国道扱いになっているのだろうか。

    2.坊主沼避難小屋まで

    甲子温泉から猿ヶ鼻までは、斜面をつづら折りに登っていく。今日は急ぐ行程でもないのでゆっくりゆっくりであるが、12kgを背負っているので、足が前になかなか出ていかず、休み休みになってしまう。途中、甲子トンネル予定地があったが、開通すると風景も一変するだろう。登っていくにつれて、つづら折りの折り返しが短くなってくる。蒸し暑かった林も気持ちだけ明るく涼しくなってきてやがて折り返しがおわり緩やかな傾斜で尾根を登るようになると、猿ヶ鼻の看板が現れた。猿ヶ鼻からはゆったりした尾根道になり、多少風が通るが、まだまだ暑い。左側に樹間から時折旭岳が遥かに高く聳えているのが見える。甲子峠への分岐を右に分けると道は傾斜が増し、甲子山への登りとなる。頑張って登るとなんとかコースタイム程度で甲子山に登り着いた。狭いが展望のいい山頂で、大白森山などの那須の北端の山々や、これからの行程をしばらく共にする旭岳が大きく眺められた。しかし山頂は日が照って暑かったので、長居せず先に進むことにした。
    旭岳の雄大な姿を眼前にして、背丈の低い灌木の間の道を下っていく。下り着いた鞍部は、不思議な感じの暗いブナ林だった。さて水場が無事に見つけられるかが、重要な問題である。ガイドブックに従って鞍部を通過し、ゆるやかな登りにかかってしばらく歩く。そうすると登りが急になる手前に、立派な水呑場という看板があり、右に下っていく道があった。5分ほどで水場に到着し、乾いた体に水を思う存分補給することができた。水場では、地元の山菜とりの人たちが休んでおり、これからの行程を話すと、リポビタンDとピーナッツをいただいた。このあと明日の下山まで水は無いので、2Lの水を登山口で詰めたものと入れ替えて出発した。
    水場からは、旭岳の北側の尾根を乗り越す急坂となる。急な土の斜面を、張られたロープや灌木に掴まって高度を上げていく。水を満タンにしたので、背中がズシリと重く苦しいところである。登り着いたところは、旭岳の北側の尾根の末端である。旭岳には一般的な登山道は無い。ただし、昨年地元で発行された、「会津百名山」には、上級・登山道有とされており、西郷村の尽力により道が開かれたとある。その切り開きが、この北側の尾根を登っていく道である。現地は確かに灌木が刈られており、入っていけそうである。但し、ロープがはられており、行き止まりの看板がかかっている。途中、北側の反射板への道と別れて頂上に達するらしいが、すでに藪も深そうで、その後メンテナンスしている気配もなく、いずれまた元の状態に戻るのではないかと思われる。のちに、坊主沼避難小屋のノートを見ると、登山者の旭岳に関する書き込みがあると、定期的に登山道を巡回しメンテナンスしている自然保護指導員の方が、危険並びに自然保護の観点より旭岳に登らないで欲しいということを、おりに触れて強調されていた。いずれにせよ、そのつもりで来ないとついででは難しい山であると思う。
    さて、緩やかに旭岳の東側山腹の巻き道を辿っていく。笹が刈り払われた道で、斜めになった道であるが、刈り払いの根本を踏みながらの歩きなので、多少滑りやすい。道は1600mを超えると今度は緩やかに下りになる。視界の開けた場所で、今日はあとは下るのみということで一服する。旭岳の南側の尾根に抱かれるように囲まれた坊主沼まであと少し。森の中の道を下っていくと赤い屋根が見えてきて、程なく避難小屋に到着した。
    避難小屋の入り口には鐘が据え付けてある。同宿にはどんな人がいるのだろうかと、多少不安な面もちで中に入ると、なんと誰もいない。ひょっとして、今日は一人かもしれない。窓を開けて空気を入れ替え、坊主沼でオタマジャクシや水生昆虫を眺めたあと、小屋の中で食事をとる。備え付けのノートに書き込み、パラパラとめくる。数年間同じノートを使っているようだ。板の間に横になると、ちょうど窓越しに旭岳の山頂が位置している。マットを出してシュラフにくるまり、日が暮れるとともに、ヘッドランプを使うことなく眠りについた。やはり、朝まで1人だった。

    3.三本槍岳へ

    今回の山小屋の朝は、廻りに誰もいず、何の制約もなく、自由気ままである。4時を過ぎるとだんだん明るくなり、目の前の旭岳の山頂が明るくなってきたので、ゆっくりと起きあがる。軽い食事をし、さっそく荷物を詰めて出発準備を整える。食事で水を使ってしまったので、今日1日を1Lと、数回水を継ぎ足したので、薄くなった「桃とカルピス」で過ごさないといけないのは不安である。但し、荷物は軽い。旭岳の南側の尾根を乗り越すべく、再び高度を上げていく。ここも、昨日の巻き道と同様、斜面の笹を刈っただけの道なので、足下が斜めでかつ笹の根本を踏む道であり、おまけに朝露で滑りやすく、何度も転んでしまい、ズボンはグチャグチャになってしまった。笹藪をかき分け登り着いた尾根は、こちらからも旭岳立入禁止の看板があった。本によると、南側の尾根は厳しい藪こぎを強いられるらしい。巻き道が終わり、主稜線に合流すると、道は断然歩きやすくなる。緩やかに下ったあと、ゆったりと登って笠ヶ松の頂上に立つ。頂上には名前の通り松の木があって、風が通り気持ちが良い場所で、朝方には頂上に雲がかかっていた三本槍岳の方向や、三倉山大倉山もすっかり霧が晴れて青空に美しい姿を見せていた。
    三本槍岳までが今日の登りの前半の一区切りである。目の前の須立山は、ガレ場の急な登りを見せている。さらにそれを超えて200m登って三本槍岳である。須立山への登りは、見た目の通り石のガラガラした急な登りで、途中からロープにつかまって、体を引き上げる様な道になる。これを登りきったところが、須立山の山頂で、ここも 360度の展望の山頂であり、益々三本槍岳の大らかな山頂が近くなってきた。振り返れば、旭岳が大きく、こちらは凛々しく、大きな鳥が翼を広げたようなかっこいい山である。そして、眼下に鏡沼も見えてきた。
    明るい尾根道を進み、鏡沼への分岐を過ぎて三本槍岳への登りにかかる。もう山頂には数人の人がいるようだ。急登というほどではないが、時折掘れたような段差がある道である。大峠の分岐で一息ついて、もう一登りで今回の最高峰となる三本槍岳山頂である。途中で今日初めての人とすれ違ったのち、3人の人が既に休んでいる三本槍岳の山頂に立った。山頂からは那須連山はもちろんのこと、日光や尾瀬の山々が展望できる。それらの山々は青空のもと、雲海の上に、勢揃いしていた。

    4.核心部の縦走

    これより、茶臼岳まで、登山者や観光客が非常に多い地帯に入る。早朝とはいえ、すれ違う人が断然多くなってくる。穏やかな道を登り返してスダレ山を巻き、北温泉の分岐を経て、清水平に降りる。湿原状の清水平は一筋の水が流れていた。再び今度は木道の整備された道を、熊見曽根の北の1900m峰に登り返していく。そして、隠居倉への分岐を分けて、朝日岳の分岐に出る。この間短いとはいえ登り降りが連続し、だんだん疲れが溜まってきた。分岐に荷物を置き天に飛び出したような、朝日岳の山頂を往復する。山頂の景色はここも申し分なく、茶臼岳が草木のない山頂部を大きく見せている。また、今まで歩いてきた、三本槍岳からの穏やかな山頂は美しく、まわりの感動の声につられて、こちらも感涙にむせぶところである。(ちょっとおおげさだが..)三本槍岳の横で、旭岳が目立って自己主張しているところが面白い。実は那須連山の中で、最も個性的な山かもしれない。
    次の登りは茶臼岳の200mである。ここまでくると、かなり疲れてきたので、これから登らなくてはいけない数が頭から離れない。少なくともあと4つである。その中で一番の標高差が茶臼岳だ。峰の茶屋までは、荒々しい岩稜の様相であるが、峰の茶屋まで行って大休止したいがために、先を急ぐ。実は峰の茶屋に何か水のようなものでもないかという淡い期待を抱いていたが、やはりガイドブックにあるように単なる地名であり、そこには立派な避難小屋がたっていた。ボッカの距離もそれほどではないので、売店でも開いたら繁盛するかもしれない。ここまでくると団体も多く、非常に人が多い。ごった返す峰の茶屋は通過し、茶臼岳の分岐になる稜線のベンチで大休止した。茶臼岳は、終始蒸気機関車のような音を立てて、たくさんの噴気口から蒸気を吹き上げていた。ちなみに峰の茶屋から見る朝日岳はなかなか見応えがある。壁が赤茶けているという点を除けば、アルプスの岩稜の山の雰囲気である。
    さて、ゆっくり休んで茶臼岳の山頂に向かう。岩礫の積み重なった道を、ゆっくり登っていくと、山頂部を回り込むようにして高度を上げていく。南面に出ると、眼下にロープウエイ駅の駐車場が大繁盛である。やがて、火口壁に登り詰め、ロープウェイからの道と合流すると、かなり観光客の世界になってくる。駅からも1時間はかからないであろう。山頂にいると、西側から霧が吹き上がってくるが、無限地獄からの蒸気が上がってきているのかもしれない。もちろんかなり硫黄臭がある。ごった返す山頂は、さっさと退散するとして、下山は牛ヶ首に直接下ることにする。ガイドブックに視界が良ければ下ることが出来ると書いてあったので挑戦してみた訳である。しかし、どこをどう間違えたのか、あるいはそもそもこういう事だったのか、かなりの急傾斜の、山頂の下の岩場を巻いて下ると、岩屑で埋まった急斜面が延々と続き、立つそばから足下が崩れていく。少しでも安定しているところを見つけながら、果てしなく下に見える道に向けて大きな落石を起こさぬ様、慎重に下るしかない。まっすぐ下ると距離が長いので、途中から牛ヶ首の上方に回り込んでいくが、一部は、足下が崩れる前に走って通過するという乱暴な歩き方で突破していく。結構な音も立てているので、かなりの人が休んでいる牛ヶ首の人たちは、気がついているだろう。きっと、「あんなところを歩きやがって....」なんて思われていると思う。なんとか牛ヶ首からの尾根上にでると、かすかにペンキがあったので、違うコースを歩いてきたかと思うが、見上げてもそんなに歩きやすそうな場所はなかった。尾根にでてからは歩きやすかったが、別に視界が良くても下るべき場所ではないと思った。峰の茶屋まで戻って巻き道を歩くことを強くお勧めする。その方が無限地獄などを、間近に楽しめていいし、安全である。
    牛ヶ首で休んでいる人の前で止まると視線が怖いので、下りで気を使って相当疲れていたので休みたいのはやまやまであるが、そのまま南月山に向けて直進していったのであった。

    5.南部の山

    日の出平への登りで、牛ヶ首からだいぶ離れたなと思ったあたりで、ちょっと休憩する。かなり日差しが強くなっており、ジリジリと焼けるような暑さであるが、時折渡る風に救われる。日の出平は、平坦な山頂で、広々とした尾根が続いていた。南月山へは、緩やかな下りとわずかな登りである。振り返ると、日の出平から西に続く尾根が青空と笹の緑と横一直線の尾根とで、美しい光景を見せていた。日が高くなってきており、空にはガスがかかりはじめた。南月山の山頂には数人の登山者が休んでいた。ちょうど昼時であるが、私としてはもうまる1日歩いた気分である。かなり体中に疲労がたまっており、最後の黒尾谷岳の登りを思うと、頭が痛いところである。山頂は、ガスに展望が遮られてしまったが、のんびりとした雰囲気のいいところであった。
    南月山からは、本格的に下りとなり、樹林の中をどんどん降りていく。途中、左側が大きく崩壊しており、道のギリギリまで来ていてもう少しで崩れそうで、気分が悪い。下るにしたがって、黒尾谷岳のどっしりとした体が大きく視界に塞がってくる。あれを登るのかと思うと、鬼のような山だと思う。できれば巻いていきたいところである。とにかく登り口まで行って、休んで鋭気を養おうと先を急ぐ。そして、10分くらい休んでゆっくり登り始めると、あっさり10分程度で登り着いてしまった。それもそのはずで、標高差は90mくらいなのであった。気持ちが実際以上に山を大きく高く見せたのかもしれない。
    道沿いに山頂を示す看板がかかってはいるが、分岐する踏み跡があったので、入ってみると、そこにも大きな岩があって、山名の標識があった。これは、うかりすると、見過ごすかもしれないと思う。とはいっても、後でガイドブックを見ると、小さな祠もあると書いてあったが、ひょっとして私も、本当の山頂を見落としたのかもしれない。
    黒尾谷岳からはひたすら下るのみ。急な坂を下ると、しばらく傾斜が緩やかになる。ここまで約30分。さらに急坂のつづらおりになり、やがて道はどんどん右方向に進むようになる。この間カラマツと広葉樹の混じった雰囲気のいい森がずっと続く。別荘の上部が見え始めると、舗装路も近い。
    開発された別荘地にでてからは、基本的には大きくジグザグをきるメインの車道を辿る。ものすごく遠回りになるので、適当にショートカットしたが、本来関係者以外立ち入り禁止である。この下りは歩き疲れた足にはなかなか厳しい。あけぼの平のバス停までは、ゆっくり車道を辿ると1時間をみておいた方がいいかもしれない。
    あけぼの平にでると、バス停が無い。ということで時刻がよく解らないので、前にあるミニマートコバヤシでバスの時刻と位置を聞いた。いずれにしても、店の前がバス停らしい。バスまで約50分。15時30分のバスまで、店の中で休ませてもらい、コーヒーを入れてもらった。この店では、その様なサービスをしてくれるので、下山して時間があれば立ち寄られるといいと思う。店で買ったビール500mLは、水に飢えた体にあっさり吸収されてしまったので、今度は500mLのジュースを買って一気に飲み干したのであった。



    長文を最後までおつきあいいただきありがとうございました。静寂の北部と、派手な中央部と、穏やかな南部の3つの那須を2日間で楽しみました。中央部の3つのメジャーな山は、それぞれが特徴的で面白かったと思いました。またいつか、今度は三倉山や、大白森山などにも足をのばしてみたいと思います。
    あけぼの平は、バスは1日6本ですが、13時50分頃と、15時30分頃といった、いい時間にありますので、充分利用できます。帰りのバスはりんどう湖なども経由するため那須のいろんなテーマパークや博物館の前を通り、一大観光地であることを感じました。観光に行くのもいいかもしれませんね。