会社内の仲間で計画した乾徳山であったが、晩秋でもあり奥秩父での雪の情報に一喜一憂しつつ準備を整えた。しかしそれも杞憂で、当日は好天に恵まれ素晴らしい秋の一日だった。
電車が大月を過ぎるころ、車窓には抜けるような青空の下、滝子山の美しい姿が現れた。紅葉は下半分が残っており、美しく色づいている。塩山駅では先に普通電車で到着していた2人と合流してタクシーに乗った。駅で運転手に正面に見える乾徳山を教えてもらったが、なるほどピラミダルな山である。乾徳神社の里宮の上の広いところでタクシーを降り、10分ほど林道を歩いた登山口から山道に入った。
登山道に入るとしばらくは暗い植林地を行き、石のガラガラした道を高度をあげて行く。やがて林道を横切り、道の上を水が流れるようになると銀晶水である。銀晶水で一服したあとは、樹林はカラマツなどの落葉樹に変わり、落ち葉で歩きやすく明るくなったつづら折りの道をじっくりと高度を稼いでいく。左前方に特徴的な乾徳山のピークが時折見え隠れしていた。下草に笹がでてくると、だんだん道の傾斜が緩やかになり、ちょっとした明るい広場のような錦晶水に着いた。登山道脇の水場は普通斜面からわき出ているか、沢沿いかが普通の有りようと思っていたが、ここは広々とした平地の水場で、遠くにトイレもあるいい休憩所であった。
錦晶水から道は緩やかになり、間もなく国師ヶ原に入る。灌木の平地からは、展望が開け、草原の稜線と屹立する乾徳山が目に飛び込んできて、一気に気分の晴れやかになる。扇平に登る道は、見かけ以上に急登で息も絶え絶えであるが、振り向くと富士山や冠雪した南アルプスの展望に励まされ、明るく細かい岩の積もった道を、扇平の分岐点を目指して一歩一歩足を出して行った。やっと辿り着いた扇平は展望のいい尾根上であり、少し休んだ後、山頂に向かって進んで行った。樹林の中に入り岩の出始めた尾根を行く。やがて手足を総動員しての登り、鎖もあらわれる。そしていよいよ山頂に繋がる天狗岩の鎖が見えてきた。
天狗岩の鎖は前半は最初は体重をかけて一気に登り、後半はスタンスも豊富である。登り着いた頂上は遮る物のない大展望が展開していた。金峰山から雲取山〜石尾根まで屏風の様に繋がる奥秩父連山が一望に見渡せ、少し南によれば御前山・三頭山がはっきり見える。そして大菩薩、富士、御坂の山々、冠雪した南アルプス連峰、その向こうに白く輝いているのは乗鞍岳あたりだろうか。飽くことのない展望を楽しむことができた。
山頂から水のタル側に下る道は、北面にあたり充分雪の着いた鎖場の続く岩稜となり、滑らぬよう慎重に下っていった。水のタルからの下降路もしばらくは雪の付いた急下降が連続するが、やがて傾斜が緩やかになると雪も消え、国師ヶ原に向けての緩やかな下りとなる。そして、そろそろかと思う頃樹林が明るくなって国師ヶ原に飛び出した。いままでの暗さとは打って変わっての国師ヶ原は明るく開放的であった。国師ヶ原からは夕暮れの赤い光の中を往路と同じ道を下って林道に降り立ち、乾徳山登山口のバス停にむけて、ゆっくり車道を下っていった。紅葉に彩られた里の夕暮れは美しく、軒に並んだ干し柿など、この季節ならではの風情であった。