四日市市に転勤になったので、久しぶりに鈴鹿の山を登ってみようと、最初の休日にさっそくでかけた。まずは以前敗退して、立ったことのない雨乞岳に挑戦である。
朝日が部屋に入ってきた。素晴らしい天気で、少しでも早く出なければと、急いで支度をして車を走らせる。湯ノ山に向かう道は、正面に屏風の様な山並みを見てのドライブで、がぜん楽しくなる。武平峠の登山口から、朝露で濡れた草を分けると植林地の登りになり、ゆっくりとこなしていくと、やがて少し下り気味のトラバースになって、細かくアップダウンしながら進む。少しもったいないなどと思いながら、尾根と谷の出入りを繰り返していると、いつしかゆったりと下る道に入っていた。左手はすでにはっきりとした尾根の壁になっており、いつのまにか御在所からの稜線を越えて、愛知川源流の沢谷に入っていたのだ。しばらく分水嶺直下の広々とした樹下の源流の旅になり、いかにも山中を逍遥している雰囲気である。やがて、コクイ谷の標識のある分岐点に着き、ここから両側が壁になった狭い枝沢を登って、沢谷とクラ谷の間に張り出す尾根を乗越す。尾根をすぎると、途中に崩壊地の崩れそうな箇所もある道をトラバース気味にクラ谷に下って行く。広いクラ谷に降りると、水量もそこそこの緩やかな沢に沿って登るようになり、何度か踏み跡のままに左右に徒渉しながらの道はなかなか楽しく、ここも源流が思う存分楽しめた。途中若干の急登で稜線が近づくが、それでもまだまだ源流が続く。花崗岩の南鈴鹿はどこでも稜線近くまで水流があるのだ。
流れが細くなり、正面に明るさが見えてくると、緩やかな登りで、七人山のコルに着いた。七人山の往復は、十分すぎるほどの赤テープに導かれて、一面の紅葉の樹林帯を緩やかに登って行く。振り返ると雨乞岳が高く聳えており、登りはまだまだこれからだ。10分ほどで登り着いた山頂は、平坦でなんの特徴もないが、先に訪れた人たちが残した山名標識がいくつか木にかかっていた。
七人山のコルに戻り、東雨乞岳の山頂を目指す。樹林のある急登から、笹のトンネルの中の急登に変わり、視界のない中を、頑張る。しばらく行くと笹が低くなり、一気に展望が開けてきた。滋賀県側から流れてくるガスがかかっているが、見渡す限り植林の無い愛知川源流の山は、まさに錦秋という感じで、素晴らしい風景である。
東雨乞岳山頂は360度の展望で、これから行く雨乞岳が大きく、笹の稜線も美しい。まずは、雨乞岳の山頂に向かって稜線を辿る。鞍部には稲ヶ谷道が鈴鹿スカイラインから登ってきている。笹を分けて登り返せば雨乞岳山頂で、ここは狭くてあまり展望が無い。山頂のすぐ後ろの、杉峠に向かう笹藪の中に、名前の由来ともなった、大峠の沢と言われる小さな池があった。少し杉峠側に下ると、笹も低く展望がよくなり、杉峠からイブネやカクレグラに続く稜線が良く眺められた。
展望のいい東雨乞岳に戻り、すっかりガスも消えた山並みの展望を楽しんだ。霊仙、御池から始まる稜線の山々、西側からだと双耳峰のような、御在所・国見岳、崩壊の激しい釈迦ヶ岳、ゴツゴツした鎌尾根を従えた鎌ヶ岳と、なかなか見飽きることのない眺めを楽しむことができた。
下山は、七人山のコルあたりで、再び紅葉にしばらく見入ったあと、源流の道を歩き、行きには気づかなかった、分水嶺を越えるあたりを確かめつつ、武平峠へと下っていった。途中、視界が大きく開けて、紅葉の鎌ヶ岳が正面に大きく見える箇所があり、素晴らしい景観を見せていた。
1年後七人山で
前回の山行から1年後、再び全く同じコースを歩く機会を得た。異なっているのは、前回は単独、今回は8人である。相変わらず美しい源流帯を経て登り着いた七人山あたりは、少し早い分だけ前回ほどの紅葉ではなかったが、記憶通りの林の中だった。山頂の看板は誰かが取り外してしまったのか、一つも無かった。
今回は山頂からさらに奧へと進んだ。ゆったりと馬の背のような落ち葉が敷かれた尾根の上に、少し黄色や赤に色づき始めた美しい林が広がる。少したどると小さなヌタ場があった。どこでも腰を落ち着けてくつろげるような稜線で、友との山ならではの宴が始まる。訪れる人は無く、谷間に鹿の声が何度もこだまする。山中の素晴らしいひとときであった。
この日は午後から雲に覆われ、雨乞岳まで往復したが全く展望は得られなかった。
雨乞岳山頂に向かう笹の稜線
参考図書・地図 | その他のコース |
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アルペンガイド 鈴鹿・美濃 エアリアマップ 御在所・鎌ヶ岳 50000図 御在所山 25000図 御在所山 |
1.(湯ノ山温泉)・武平峠から、クラ谷を経て雨乞岳(本文) 2.朝明から根ノ平峠、御池谷、杉峠を経て雨乞岳 3.甲津畑からフジキリ谷を経て杉峠・雨乞岳 4.綿向山からの稜線を縦走 5.稲ヶ谷から雨乞岳 1〜3は一般的ですが、いずれも距離が長くなります。 4〜5は経験者向きです。 |