昨年の夏休みは、北アルプスで思い切り歩きました。そしてまた1年が経ち、夏がやってきました。今年も日本アルプスと思っていたのですが、いざ休みになると、なかなか思いが定まらず、ああでもないこうでもないと思っているうちに休みに突入です。そしてなんとなく旅をしてみたいと思うようになり、丸1日かけて計画を練り上げました。今回はめずらしく、ほとんどの列車の切符を確保し、宿泊先も予
約してあるという、用意周到な山行です。そして、第1日目が八甲田山です。
1.夜行列車で青森へ
今回のテーマは旅なのである。学生時代によく日本国内を旅をした。ほとんどが鉄道の旅だ。その中でも東北はワイド周遊券を使ってあちこちをたずねたものである。今回の切符を買うにあたって久しぶりに時刻表のピンクのページをつぶさに見ると、けっこう様変わりしている。ワイド周遊券というのは無くなったようだ。そしてそれに近い切符ということで、今回は、秋田・白神周遊切符を利用することにした。
かつて、東北に遊びに行く時によく利用した列車が急行「八甲田」である。丁度仙台青森間が夜行運転となる列車はなかなか便利で、青森からバスに乗り継いで十和田湖を訪ねたりしたものである。当時の急行列車には東北の名山の名前がことごとく付いていた。今ではそれらはほとんど無くなり、新幹線と特急列車のみ。今回利用するのは、当時の貧乏学生時代には高嶺の花であった特急「はくつる」である。当時は電車寝台の速度の速い列車であった。今は客車の寝台列車となり、数少ない東北の夜行列車として貴重な存在である。
先端がどん詰まりの上野駅の地上ホームはかつての上野の面影を良く残している。入線してきた客車は、半数がペンキがはげたような感じで、輝いていた青のイメージを思い出すにつけ、年数を感じさせる。上野を出発し、大宮に泊まったのは憶えているが、あとはぐっすりと熟睡した。
翌朝の盛岡到着で目が覚める。うつらうつらとしているうちに一戸、二戸、三戸、と停まって行く。デッキに出て外を眺めると、空は重苦しく暗い雲で覆われている。せっかくの遠出であるのにちょっと残念だなと思う。八戸、三沢、野辺地と過ぎるうちに、乗客は3分の1くらいになった。そして青森が近づくと青空が見え始めた。ひょっとして天気は回復してきているのかな?と思い、少し嬉しくなった。
たくさんのポイントを渡って列車は青森駅のホームに入っていく。在来線の終着駅に入っていく雰囲気である。新幹線はこの雰囲気がなく少々味気ない。青森駅の上には快晴の青空が広がっている。バスまでに少し間があるので、朝のひんやりした空気のすがすがしい中を、八甲田丸を係留してあるあたりまで散歩してみた。この船の現役時代に乗船したことを思い出す。連絡船は何度か乗ったが、未だにトンネルを抜けたことが無い。今度は函館の駒ヶ岳あたりを計画すれば乗れるかな?とふと思った。
遠くに雲がかかっているのが多少気になりつつ、十和田湖行きのバスに乗って、山に向かっていく。いつしか陸奥湾を見下ろすような高原の道となり、萱野茶屋に到着。ここからは八甲田の山頂部が良く見える。大岳の山頂部は少し雲がかかっているようだった。萱野茶屋では休憩でお茶をいただく。そして再びバスに乗り込むとほどなくロープウェイ駅に到着した。
2.八甲田山
八甲田山といえば、すぐにあの映画を思い出すとても厳しい情景である。しかし、今の時期ここにあるのはゆったりした稜線の穏やかな山だ。満員のロープウェイに乗って一気に田茂萢岳の山頂付近まで上がる。ロープウェイ駅から8の字の周回コースになっているが、まずは山頂を経由する道を行く。といってもすぐに山頂で、道は下りになる。遊歩道の広い道を行くと田茂萢湿原が見えて来はじめ、まもなく8の字の交点である。広々とした湿原を前景に赤倉岳から大岳への稜線を見る。全くのびのびとした、光景である。大岳の方の雲も無くなっており、青空が広がっているのは嬉しい。
遊歩道を出るとすぐに毛無岱への道が分かれ、笹やアオモリトドマツの中の樹林の中を登るようになる。道ばたにはタチギボウシの青い花が彩りを添えている。樹林帯を出て視界が開けるとハイマツ帯となり、山頂まで続く階段の道となる。そこそこの急坂ではあるが、視界が開け気分が良い。振り返れば田茂萢周辺の、広々とした全景を眺めることができる。階段を登り詰めれば五色岩とも言われる爆発でできた断崖の縁に立ち、これを回り込むように登っていく。少し傾斜を登ると祠の祀られる広場に出た。そして、その少し先が赤倉岳の山頂であった。
このあたりで、東側からガスが飛んで来はじめ、大岳の方はガスがかかり始めた。そして、井戸岳の火口を周回するようになると、次々と飛んでくるガスで、井戸岳の火口の反対側も霞むぐらいになってしまった。残念だが、いままで良く見えていたので良しとしようと思う。井戸岳の砂礫地にはイワブクロが咲いていた。井戸岳から避難小屋のある鞍部まで、ガラガラした道を降り、相変わらずガスのかかる大岳への登りに入る。少し樹林の中を歩いたあとは、砂礫の多い視界の開ける登りとなる。ガスを含む風が吹き付け、かなり肌寒い。ゆっくり登っても、山頂へは2〜30分といったところであろうか。ガス混じりの風が吹き付けるので肌寒く、手が冷たいと感じるほどだが、いつの間にか再び晴れ渡ってきた。眼下に青森市街と陸奥湾を望む展望のいい山頂である。ガスがどんどん無くなっていく中で、展望を楽しみつつしばらく休憩した。
下山は、再び避難小屋に戻り、毛無岱を目指して下っていく。しばらくは樹林の中の単調な下りが続く。やがて田茂萢の分岐から下ってくる道と合流すると、毛無岱に入り、どんどん展望が広がってくる。この上毛無岱からの八甲田の峰々の展望は素晴らしい。広々とした湿原の上に、赤倉、井戸、大岳と3つの山が並ぶ。実に伸びやかな幸せな光景である。こんなにいい景色の山はずいぶん久しぶりだと思った。
広々とした湿原の中の木道を下っていくと、地塘と休憩場所を経て、再び樹林に入る。ここは長い階段の下りで、上毛無岱と下毛無岱の段差にあたる。途中から見下ろす下毛無岱の地塘群も美しい。地塘まで下ってみれば、池を全景にして田茂萢岳が美しい。
再び木道を下って行くとどんどん大岳も遠くなり、やがて樹林の中に入る。淡々と下っていけば城ヶ倉温泉の分岐である。ここからはブナ林の中をアップダウンしながら進んでいき、やがて急下降になると眼下に酸ヶ湯温泉の屋根が見えてくる。そしてほどなく温泉の前に降り立ったのであった。
3.酸ヶ湯温泉から次ぎの目的地へ
バスの時刻まで1時間あまり。ずいぶん久しぶりの酸ヶ湯温泉に入ってみる。ここの温泉はいかにも湯治場風で、またかなり込んでいたので居場所が少なく、私にとっては長居するのがちょっとつらかった。いかにも体によさそうではあるのだが。しばらく温泉を楽しんだあと、食堂でビールを飲みながらバスを待ち、乗客になるとすぐ眠りに落ちてしまった。
青森には予定より早く付いたので、持っていた「あけぼの」の切符を「日本海2号」に変更する。どちらも寝台特急であるが、夕方の座席利用である。今日の宿泊地は、能代である。特急で東能代まで行き、五能線の気動車で1駅入って能代に降り立つ。予約したビジネスホテルへは歩いて20分ほど。途中のコンビニで明日の食料を仕入れ、ホテルでコインランドリーを使いつつ、荷物を解いてくつろいだのであった。
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イワブクロ | タチギボウシ |
上毛無岱の草原と八甲田大岳
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酸ヶ湯温泉から仙人岱を経由で大岳 酸ヶ湯温泉=80分=仙人岱=50分=大岳 八甲田は、これらのピークの他にも、高田大岳、櫛ヶ峰などいろいろなコースを楽しむことができます。 |