日本アルプスは地元の低山ハイキングを始めたころはとても遠い存在だった。山の本を読めばそこには穂高や北岳に代表される登山のメッカが美しい写真とともに並んでいるが、それらは熟達者の登山家の領域と考えていてただ眺めるばかりだった。それでも回を重ねるうち、谷川岳・そして八ヶ岳と歩いてきてもう手の届く所にあるような気がしてきたので、最も易しそうな縦走コースの中央アルプスに挑戦することにした。これは私の初めての山中泊の経験でもあった。
宝剣岳〜縦走
早朝の澄み切った空気の中しらび平の駅に到着、友人と合流しロープウェイに乗車する。一気に千畳敷まで持ち上げてくれるロープウェイは本当に便利なものであるが、反面麓から登る本来の姿からかけ離れているような気がして複雑な心境である。千畳敷は紅葉の最盛期。回りをとりまく岩稜からこれが日本アルプスなのだと感動する。整備された道を乗越浄土に向かうが、結構な急登でかなり汗をかいた。乗越浄土は木曽駒ヶ岳方面へ伸びやかな尾根が繋がっているが、行程の関係もあり今日は直接宝剣岳に向かう。険しい岩の道ではあるが手がかりが多いのでそれほど苦にすることなく宝剣岳頂上に着いた。狭い頂上ではあるが、回りの展望や千畳敷の眺めなど素晴らしく一時を過ごす。頂上の岩にもなんとか攀じ登ることができた。
今度は極楽平に向かって岩稜を下る。慎重に下らばそれほど危険を感じるということはなかった。賑やかな極楽平につくとまず今日一日の難関を通過した気分ですがすがしい。あとは稜線をひたすら南下するのみだ。右手に三ノ沢岳を眺めつつ広い稜線を歩く。天候は曇っていてすっきり晴れ渡りはしないが、そこそこ明るく気分は爽快である。島田娘を過ぎて大きく下り、濁沢大峰への登りにかかる。かなりの急登で結構疲れを感じた。
再び下って今度は檜尾岳の登りにかかる。かなり疲れていたので、鞍部で小休止し体力を回復させて登りへ、これも急登だと感じたがなんとか檜尾岳山頂に到着。檜尾避難小屋に至る尾根はいかにも広々とした高山の緩やかな尾根の雰囲気で美しい。これから進む方向を見るが、熊沢岳はまだまだ遠くに見え先が長いことを知った。かなり雲がでており、空木岳はかすみの中ではっきりとは見えない。この広々とした山頂でゆっくり休憩することとした。
檜尾岳から、熊沢岳に向かう。ハイマツと岩の道を進み、登り下りを繰り返しながら少しづつ近づいていく。岩っぽい道を登って熊沢岳の山頂に到着したが、かなり雲がでてしまって風もあり寒い。休憩もそこそこに次ぎの東川岳を目指して出発。霧がすこしかかった道は薄暗くちょっともの寂しい雰囲気になってきた。ここから東川岳まではいくつかのピークがあり各々に名前がついているようだが、縦走路は木曽側をまいて行く。ハイマツと岩の単調な道を黙々と延々と歩く。そろそろ最後のピークかなと検討をつけて登ると東川岳の頂上だった。ここで霧が晴れ、薄暗い雰囲気だったところに日が指してきて明るくなった。眼下に今日の目的地の木曽殿山荘が見える。長い縦走を経て目的地に着いたことで気分も晴れ渡ってきた。そして、正面には大きな空木岳の雄姿がずっしりと聳えたっている。ここで初めて空木岳の全貌を見たが印象はどっしりしたとても大きい山だと思った。
東川岳から一気に坂を駆け下り木曽殿山荘へ。小屋について今日一日の実りのある縦走を思い返しながら一杯やるととたんに眠くなった。夜の8時ころ再び目が覚めたので外に出てみると綺麗な星空であった。この日木曽殿山荘は大部屋でオイルサーディン状態で宿泊することとなった。
空木岳
早朝から木曽殿山荘を続々とパーティーが出発して行く。我々も少し遅れて後を続いたが、途中でかなりのパーティーを追い越したため山頂へは2番目の到着となった。空木岳への登りは長く急登であった。ただだらだら登るのではなく、岩場もありアクセントがある楽しい登りであった。宝剣岳の岩場は予想していたのであまり危険を感じなかったが、こちらの方は全然予想していなかったのでちょっと危険箇所だなあと思ったものだ。空木岳の頂上は残念ながら雲の為遠望が効かない。おまけに強風が雲とともに吹き付け大変寒かった。しばらく山頂を味わっていたがさすがに寒さに耐えられず、退散することにした。空木岳からは空木平に下り池山尾根を経て菅の台へ向かう。空木平は紅葉がとても美しかった。千畳敷と比べれば規模こそ劣るものの、喧噪のない空木平はとても好ましい風景であった。ナナカマドの真っ赤な紅葉の中の道を進み空木岳避難小屋へ。ここから見上げる空木岳は東川岳から見た峻険な空木岳ではなく、穏やかな美しい山だった。一気に長い長い下りを歩いて菅の台へ降りる。この長い長い下りを結構なスピードで歩いたことから、山を歩きはじめてから初めて膝が伸びないような痛みを感じたのだった。
本文中の写真
宝剣岳前面
中央アルプスの稜線
空木平