美ヶ原

 王ヶ頭 2,034m 茶臼山 2,006m 三峰山 1,887m

山域:中信・筑摩山地
2000.8.26


美ヶ原や霧ヶ峰といえば、信州の一大観光地であり、ビーナスラインのおかげで、ドライブコースというイメージも定着している。今の状況でも深田久弥ははたして百名山ということで選ぶだろうか?と疑っても見るのだが、美しい高原を昔ながらの「山」として歩いてみようと思い立った。

名古屋から「しなの1号」に乗れば、2時間で松本である。三城方面への始発は9時半発なので、朝出るのが丁度良い。松本駅ではたくさんの登山客が降り立ったが、改札に向かうのは私一人。殆どの登山者は、大糸線や松本電鉄などそれぞれの目的地へと向かっていく。かつては美ヶ原の玄関口は松本であったらしい。しかし今や松本からバスでという人は少なくなったようだ。三城経由のバスは乗客も10人程度であった。
市街地を抜け、田園地帯を過ぎると、扉温泉への道が分かれる三城口から、つづら折りにどんどん標高を上げていく。三城にバスが着くと、三城牧場の土産物案内の放送が響きわたり、バスはしばらく停車するが、ここで降りたのも私一人である。バス停周辺からは、青空の下で美ヶ原の断崖がすぐそこに見えていた。
左に分かれる車道に入り、山荘や企業の保養所の並ぶ中を10分ほどで登山口である。山道に踏み出せば一転して、深い森の中へと入っていく。緑陰の道は沢に沿ってゆったりとしており、清冽な流れが涼しげであった。やがてあずまやのある切り開きの広小場に出ると、ここから百曲りの登りとなり、すぐに道はジグザグを切り始める。山自体の傾斜はきついが、道自体の傾斜は大きくはない。しばらくは樹林に覆われた道を高度を上げていくと、1/3の地点で標識がある。比較的気温も高く、緩やかな道とはいえ、汗も噴き出し疲れも見えてくる。だんだん木の密度が少なくなり、日差しが少しづつあたり始める。道端には、マツムシソウが見え始め、タテハ蝶が舞い始めた。初秋の高原の風情となってきた。
2/3の標識のあたりで、少し道に水が流れはじめ、そのすぐ上に水場があった。流量は少ないが冷たくていい水である。しばらく水の少し流れる中を登っていくと、だんだんと木も低くなり、ついに高原の先端がすぐ上に見え始めた。最後に鉄平石のガラガラした道になり、それを登り詰めれば、「世界の天井が抜ける」瞬間である。少なくとも爽快であることは間違いない。
マツムシソウが咲き乱れ、たくさん蝶が舞う道を、塩くれ場へと歩いていく。この冬に来たときは、たしかこのあたりで、みんな雪の中に倒れて、人の形のくぼみを作って遊んでたっけ....今日は雪のない分、牧柵は高い。塩くれ場に近づくと、牛も人も多くなる。人は美しの塔から王ヶ頭に向けて繋がっている。そして私もその中に混じり、電波要塞のような王ヶ頭に向けて歩いていった。王ヶ頭ホテルの裏に回り込むと、三角点のある美ヶ原最高点である。山頂らしく、ちゃんと祠が立っているのがいい。もちろん展望は言うことは無いが、遠望が無く、北アルプスの山並みが良く見えないのが残念だった。

ホテルで昼食にして来た道を戻る。茶臼山方面への分岐は、塩くれ場から百曲りの方に戻ったあたりにあり、柵を抜けて牧場の中へと入っていくこととなる。一転して人のいない細道となり、牛の群れる中を歩いて行く。牛たちは、変な侵入者に振り返って、ボタボタと糞を落としたりしながらこちらを振り返る。道の上にもよく糞が落ちており、気を付けていないと踏んでしまいそうだ。塩くれ場から離れると牛はいなくなり、あとはマツムシソウの咲き乱れる草原の散歩である。人の少ない道はそれほど荒れてもいず、楽しい道が続いた。
草原地帯の末端まで着けば、再び柵を抜けて牧場の外に出る。少し灌木が多くなった道を緩やかに登り、前方の高みまで登り切れば茶臼山の山頂である。ここは、美ヶ原の南端で、前方は大きく下っており、さらに三峰山やその向こうに霧ヶ峰が霞んでいた。茶臼山から、花の多い急坂を一気に下り、いったん樹林帯に入ってのち、再び馬の背のような明るい尾根を歩く。振り返ると随分茶臼山が遠くに見える。この尾根の先端まで行くと小さな広場になっており、ここからは眼下には扉峠のドライブインや、行き交う車を眺めながら再び下れば、ちょうど扉峠のバス停に出た。
扉峠から車道を行き、林道の上を橋で渡る。橋を過ぎると、程なく右に和田峠方面への標識があった。山道入ると、しばらくは樹林の中のアップダウンである。車道が近くを走っているが、それほど目立たない。いくつか瘤を越えると、三峰山への斜面が大きくなり、しっかりした登りとなる。急坂を登りきれば一気に視界が開け穏やかな山頂に向けての草原の稜線が広がった。この風景は予期していなかったので、美ヶ原に出た時よりも、遥かにインパクトが大きかったくらいである。
緩やかな稜線の楽しい道を行くと、一つ手前の高みでいかにも溶岩の名残のような部分を過ぎて、最後の登りになる。それもわずかで、登りついた山頂は展望も素晴らしく、余裕があればゆっくりしたい場所であった。遠くに富士山のような浅間山が見えており、良く目立っていた。
山頂から携帯電話でロッジ和田峠に電話すると、部屋は空いているとのこと。今夜の泊まりを確保すれば、もう夕暮れも近い時間となり、下山を急ぐ。草原の山肌を下っていくと、ビーナスラインの展望台への分岐があり、すぐ下に駐車場があった。明るい尾根とも別れ、樹林帯に入ると、アップダウンを繰り返すようになる。なかなか距離があり、気ばかり焦ってくるが、最後に正面のコブを見ながら大きく下ると、そこは旧中山道の和田峠であった。立派な灯籠のある峠から、広い道を東餅屋側に下っていく。しばらく行くとビーナスラインに横切られ、もう一回横切られ、料金所で迂回を余儀なくされ、今度は車道の下をトンネルでくぐり....と、いろいろあって東餅屋付近の交差点に出た。暗くなり初めている中で、東餅屋のバス停を経て車道を少し下り、ロッジに到着。ゆっくりと風呂に入り、部屋でくつろいでいると、雷を伴った大雨になった。これではツェルトで泊まればひとたまりもなかっただろうと、この時ばかりはここに泊まれた幸運に感謝したことであった。

本文中の写真(順に)

  • 美ヶ原牧場の牛たち
  • 三峰山のおだやかな稜線

    記録

    日 程

    2000年8月26日(土)

    天 候

    晴れのち曇り

    コース

    1020 三城バス停 → 1030 登山口 → 1050/1105 広小場 → 1210 塩くれ場 → 1235/1300 王ヶ頭 → 1415/30 茶臼山 → 1520/25 扉峠 → 1645/55 三峰山 → 1805 和田峠料金所 → 1820 ロッジ和田峠(泊)

    電波塔が林立する最高峰の王ヶ頭


    参考図書・地図 その他のコース
    エアリアマップ 美ヶ原・霧ヶ峰
    東京付近の山(実業之日本社)
    25000図 山辺・和田・霧ヶ峰
    50000図 和田・諏訪
    山本小屋までバスで入ると、美しの塔経由で王ヶ頭。
    または、美ヶ原高原バス停まで行けば王ヶ頭は近い。
    三城からは、王ヶ頭や王ヶ鼻に直接登るコースもある。
    三峰山へは、鉢伏山から稜線を辿ることもできるが健脚向き
    バス
    美ヶ原方面へは、松本電鉄のHPを参照下さい。
    和田峠付近は、下諏訪や、霧ヶ峰と美ヶ原を結ぶバスが夏休み中のみ運行されるが、本数は少ない。(JRバス)