蓼科山というと、蓼科の奥にある、独立した火山のような印象がありましたが、八ヶ岳連峰の一員でした。蓼科山だけ百名山として別に扱われたり、八ヶ岳のガイドや地図にも題名に付加される格好で別に名前が出ていたりするので、連峰と別扱いの印象をうけます。気安く登れるイメージの為か、なぜか今まで見送ってきましたが、梅雨の晴れ間に思い切って出かけました。
1.蓼科山登山口(女乃神茶屋)へ
蓼科山に至る道は、七合目登山口や大河原峠など比較的楽なルートがありますが、今回はせっかくなので、伝統的な女乃神茶屋からのルートを選びました。蓼科温泉〜ビーナスライン間は省略です。
日曜日の登山でもあり、早い帰宅と、朝の空気の澄んだ時間に山頂に立ちたいため、早朝登山開始の計画として前夜出発しました。登山口に到着したのは午前1時前で、すでに登山口には同じような車が5〜6台停まっていました。車中で仮眠し、夜が明ける頃鳥の声と若干の明るさで一度目が覚めましたが、実際に起き上がったのは、もう直ぐ5時になろうかという頃で、慌てて準備を整えて出発しました。
2.蓼科山へ
駐車場から少し下ったところに女乃神茶屋と蓼科山登山口があり、登山開始です。良く歩かれた密生した笹の間を通る道を緩やかに登っていきます。このルートは緩−急−緩−急−緩−急と三回繰り返されるとのことで、最初の緩は比較的短く、やがて急な斜面の登りになりました。このあたりは標高も低いので、カラマツと笹の組み合わせは普段登っている関東山地北部の雰囲気とそれほど変わりません。この急登は100m程度で、じっくりこなしていくと再び明確に緩やかな部分に入ります。途中少し傾斜が出ますが再び緩やかになり、ほとんど水平なほどです。そして、笹は低くなり、シラビソなどの黒い森へと変わっていき、苔むした岩のある雰囲気のいい道となっていきます。
再び明確に急斜面に入ります。この豹変ぶりはまさに潔いほどです。今度の登りは、ゴロゴロした岩の積み重なった斜面で、段差の無いところを探しながら少しずつじっくり登って行きました。あたりが少し明るくなったので、振り返ってみると背後が開けて眼下に八子ヶ峰の平らな山頂部、その向こうの白い山は中央アルプスのようです。この登りも150m程度なので、頑張っているうちに登りついてしまう感じです。上に行くほど周りが開けて、見える範囲が広がり、梢の向こうに南アルプスや南八ヶ岳の峰々が青空の中朝の光の下で輝いている様子が見えるようになりました。
急斜面を登り詰めたところは少し開けて四等三角点がありました。このあたりからダケカンバが多くなってきて、高い山の雰囲気が出て来ました。南面の展望が良く、少し楽しんだ後、最後の緩斜面を進みます。木の間から蓼科山の山頂部が時々見えるようになりました。それはまだ大変高く聳えているのですが、その基部までが緩斜面です。ダケカンバとシラビソの混じる森の中を緩やかに登って行き、水平な道からだんだん傾斜が出るようになってくると、今度も明確にここから急登という形で斜面が立ち上がったので、これからの登りに備えて休憩しました。
ガイドブックの地図でこの登りの標高差を見たとき、200mくらいと誤認していました。見慣れている25000図の感覚で見てしまったのですが、ガイドブックの地図は50000図によって作られていたということです。実際は350m超の急登で、登ってもまだその先に続いていきます。じっくりと確実に高度を稼いでいくと、やっと縞枯のあるあたりに登りつきました。枯れているのであたりは明るく、振り返ると白骨化した木々が青空に映え、背後に日本アルプスの山々が眺められるという構図です。このあたりならではの面白い風景です。
縞枯帯を2つ過ぎて、再び暗い林に入り、これを抜けると山頂直下の岩礫帯に出ました。ここからは、岩のガラガラし急斜面を回り込みながら登って行きます。既に視界を遮るものは無く、南面の正面には北横岳、そして背後に南八ヶ岳の山々と南アルプスを見ながらの登りです。岩の上を進んで、西側から東側に回りこむと、蓼科山頂ヒュッテの前に出て、これを折り返し、山頂に立ちました。一等三角点です。
山頂は、広大な岩礫で埋め尽くされ、中央部が若干窪んだ形になっています。まずは山頂周遊ということで、中央にある祠の前を通り、反対側の方位盤のあるところに行きます。ここは、北アルプスが正面になります。この山頂は中部山岳のすべての山が見えるというくらい展望がいいのです。蓼科山は山々の中央にあるということなのです。北アルプス、御嶽、中央アルプス、南アルプス、八ヶ岳、中信高原、妙高火打、浅間から志賀、榛名、妙義、西上州、佐久、奥秩父と続く広大な関東山地。これほど大スターを一望できる山頂は初めてです。富士山が八ヶ岳の影になって見えないというのが、唯一の残念というところでしょう。朝の澄んだ空気の中で、人気の少ない岩の上に座り、快晴の青空の中でこれらの山々を眺めるという至福の時間を味わいました。これまで色んな山を登ってきたことが次々と思い起こされて、感激もひとしおなのです。また、これから登る山への課題も沢山発見できました。もう一つ感じたことは、荒船山と両神山はどこから見ても、これだけ沢山の山の中にあっても、やはり目立つ山だということ。これはすごいことだと思います。
3.天祥寺原を経て下山
下山は将軍平側に下り、天祥寺原経由の道をとります。将軍平への下りは山頂から低木帯を少し下って、樹林帯に入って行きますので、登りの時のような岩礫帯はあまりありません。こちら側は現在メインルートのようで、ファミリーや山ガールたちもどんどん登ってきています。大繁盛ですが、これだけの人が登っても、あれだけ広い山頂ならあまりストレスを感じないのがこの山の良いところでしょう。私はいつもの如く下りは苦手で適当に足を運んでいるので、時間もかかりバランスも悪かったと思います。今日は石の上を歩く場所が多く、余計に自分のバランスの悪さを感じました。
将軍平で蓼科山を振り返ると正面に均整のとれた山頂部が大きく盛り上がっていました。天祥寺原へは樹林帯の中の比較的細い道を下りますが、やがて沢の源頭のような狭いゴーロ上の道を歩くようになります。これは殊に歩きづらく、いつものようにポツポツと適当に足を運んでいるので時間もかかったようです。下りは何か目的意識を別に持った方が、もっとしっかり歩けるのでは?と感じました。
やがて沢が開け、広いゴーロ状のところを歩くようになると、正面に北横岳が大きく見えてきました。ここから脇の樹林帯に入ったり、沢に出たりという感じで下っていきます。最後に笹原の湿地を行くようになり、すでに天祥寺原の一角のようで、広々とした気持のいい道を行きます。大河原峠からの道の合流点で蓼科山を振り返ると、青空を背景に美しい姿を見せていました。あたりのカラマツの新緑と、濃い青空のコントラストが殊のほか美しく、しばらく眺めながら休憩しました。
やがて、蓼科山の背後に雲が出て白一色になってしまい、腰を上げて最後の下りにかかります。ここからは、久しぶりに土の歩き易い道に変わり、快調に歩いて行けました。しばらくの間は笹原の中の水平な道が続き、やがてカラマツの樹林帯に入りますが、それでも水平の道が続きます。道が滝ノ湯川から大きく離れると高度を下げ始め、緩急繰り返して下っていきました。林の中ではエゾハルゼミの合唱が聞えていました。
ビーナスラインの車やバイクの音が次第に大きくなり、登山道は未舗装の林道に出ました。そのまま林道を下ると枯れ沢を一度渡って、それほどの距離もなく、ビーナスラインに出ました。少し下に駐車場や登山口の看板が出ていたので行ってみると、ここに大河原峠への登山口がありましたので、どうやら林道に出たあとで、再び山道に入って下る正解の道があったようでした。僅かな間かとは思いますが。全く見逃して下ってしまっていました。最後に女乃神茶屋までの車道歩きが待っています。スズラン峠を目指しての登りなので、ちょっと負荷はありますが、車道はかえって下りよりも登りの方が歩きやすいのかな?と思った次第。20分の車道歩きで、朝出発した駐車場に到着。梅雨晴れで快晴の高原の山行を終えました。
駐車場に着いてテレビをつけると、ワールドカップの日本対コートジボアール戦がゲームセットになったところでした。結果は残念でした。期待していたのですが…
さて、今日はゆっくり蓼科で温泉にと行きたいところですが、この2日は快晴であったこともあり渋滞しそうなので、一刻も早く帰ろうということでパスしました。それでも小仏トンネルあたりで丁度渋滞が出始めたところで、1時間遅ければかなりの渋滞にはまっていたことと思います。自宅には午後4時には帰りついたので、きっと正解だったのでしょう。
天候にも恵まれて、期待以上の素晴らしい山を歩くことができました。そして周囲に見た山もまだまだ登っていない所が多く、楽しみが増えた感じです。一方でスピード面や下山やバランスやと、歩き方の課題も多く感じました。気にしながら修正していきたいと思っているところです。
本文中の写真(順に)
朝の樹林帯の道を行く
第二の急登から八子ヶ峰を振り返る
四等三角点付近の明るい森
青空と縞枯れの林
石に埋まった山頂部
山頂中央の石祠
山頂から南八ヶ岳の展望
将軍平から見る蓼科山
天祥寺原のカラマツと青空
天祥寺原からの北横岳