波多野睦美/つのだたかし
「ルネッサンスの肖像」

==========

波多野睦美(ソプラノ)
つのだたかし(リュート)

主催:ダウランド&カンパニイ

1996年12月1日(日) 7:00pm
バリオホール(東京・水道橋)

●波多野、つのだの演奏を聴くのがいつのまにか今年だけで4回目となってしまった。 彼らの生演奏を一度でも聴いてしまうとやみつきになってしまうので困ったもので ある。きっとそんな人々が多いのであろう、演奏開始前に会場はほぼ満席となった。 バリオホールは小規模の室内楽ホールで、リュートのような小音楽器を聴くのに 最適とは言えないまでもまずまずの環境である。今回は最後部から一列前に すわることになった。

●この日のテーマは「ルネッサンスの肖像」。14世紀後半から17世紀前半までの 西ヨーロッパのリュート歌曲をなぞるもの。リュート歌曲というとダウランドや カッチーニなどが思い浮かぶが、この日は各国からいろいろな作曲家の作品が 取りあげられた。実際、プログラムに目を通すと(私にとって)初めて聞く名前が 大半を締め、波多野のこれまでの録音にない曲も多数披露された。マショーに 始まりモンテヴェルディで終るところこそ時間軸に合わせたが、その間 トロンボンチーノなどイタリアもの、ミランなどのスペインもの、おなじみ エリザベス朝のダウランド、17世紀フランスもの、そしてカッチーニなど 初期バロックものが時代にこだわらずに演奏された。

●初めて聴く曲というのは、期待に胸が膨らむ一方歌詞の意味がよくわからないので 辛い面もある。歌詞対訳を見ながらだと音楽に集中できない上、意味を理解した頃には そのフレーズが終っているというパターン。やはり開場と同時にパンフレットを 受け取り、開演までの間それを熟読するのが正解なのか? おっと、 6月のECJ演奏会のプレトーク効果を思い出したぞ。 歌曲やシャンソンでは詩の内容そのものの重要度が宗教曲に比べて高い (うまい歌い手ほど詩の内容に沿った情感を表現できる)と思われるので、 歌詞を理解していることは演奏者の微細な表現を感じとる上で有効だろう。 って当然のことか。そんな中、ダウランドの「戻っておいで、甘い愛」 のように英語かつ何度も聴いている曲は心底堪能できた。初ものの中ではやはり 英語の「悲しみよ、表に出ないで」(ダニエル)が大変印象に残った。

●波多野の歌声は毎度のことながら本当に心に浸み入る。いつ聴いても決して 裏切られることのない安定ぶりには感心させられる。ただ、この日は 4月のカザルスホールでの演奏で受けた、全身を 放射線で照射され後ろの風景すらも声で満たされた感覚は得られなかった。 これは座席が後部で天井も近かったことと、この冬一番の寒さで全員がコート類を ホールに持ち込んでしまったため音が吸収されたことによると思われる。 バリオホールにはクロークの設置を強く望む。また、この日は非常に空気が 乾燥しており休憩時間に何か飲みたかったのだがなんにもなかった(;_;)。 後半つのだはリュートから柄の長い楽器(名前を失念)に変えたのだが、この調音に 苦労していた様子。これは湿度の低さの影響があったのだろうか? こういう悪条件下にあっても波多野・つのだのコンビネーションは絶妙であり、 さすがは百戦錬磨、来年でデュオ結成7年目を迎えるだけのことはある。 最後に、ダウランド&カンパニイにはぜひともホームページの開設を望みたい。 今後はダイレクトメールよりも効果がありますよ、つのださん。

[ゲストブックに書き込みをする]


← Back to Early Music Concert Report Index
Last Modified: 2008/Jun/10 00:11:05 JST
ALL CONTENTS COPYRIGHT(C) 1996-2005, Masaru TAIRADATE. All rights reserved.
[E-MAIL] tallis@cc.rim.or.jp