タリス・スコラーズ
「スペインの音楽」

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指揮:ピーター・フィリップス
主催:アレグロミュージック
後援: ブリティッシュ・カウンシル フィリップス・クラシックス
1997年6月28日(土) 7:00pm
紀尾井ホール(東京・四ツ谷)

●待ちに待ったタリス・スコラーズ6度目の来日公演。このホームページが立ち上がる きっかけとなった前回96年1月29日の演奏会からちょうど 18ヵ月のこの日を、どれほど心待ちにしたことか。それも今回はビクトリアの 「レクイエム」が演奏される。彼らの CD を聴いて初めてビクトリアという作曲家を知った。こんなにも天国的な音楽が 世の中に存在するなんて。もしあの世に旅立つ時が来て1曲だけ レクイエムを演奏してもらえるとしたら、モーツァルトでもヴェルディでも フォーレでもなく、このビクトリアのレクイエムを迷わず選ぶだろう。 今来日のために組まれた3つのプログラムのうち「スペインの音楽」を選択したのも そんなわけからだった(平日はきついってのもあったけど)。
●そういえば紀尾井に入るのはこれが初めて。席数も残響もカザルスよりは 大きめで今日の曲には合っていそうな予感。客の入りはほぼ満席と入ったところか。 メンバーは前回と比べてソプラノ以外が大幅に入れ替わっていた。 前半はビクトリアの「レクイエム」を含む死者のための聖務曲集全曲。最初の 4声のレクツィオこそ安定しなかったが、イントロイトゥス、キリエと進むにつれ 尻上がりに良くなってきて、オッフェルトリウムでは完全にノリノリに。全体的に 録音に比べ速めのテンポでとくにサンクトゥスはかなりの速さで進行。左端からは デボラ・ロバーツの純粋無垢の天の声が、右端からはフランシス・スティールの 大地を踏みしめるような声が全身を通り抜ける。こういった感覚はやはり生でしか 味わえない。とくにバスは自分ではあれほどの低音は出せないので(もちろんソプラノ も出ないけど :-)本当に聴いていて惚れぼれする。 しかし両端の好演と比べるとどうも真中のアルトが聴き劣りしてしまう。 私は今回ステージ付近の真中という席だったのだが、ピーター・フィリップスの 影になってしまったせいでそう感じるのか。まあこの曲にあってはあまり目立つのも 考えものだし、後部座席では結構良かったのかも知れない。CTというのは本当に 大変なポジションだと思う。レスポンソリウムの最後(私はここが一番好き)のkyrie, eleison、たっぷりと響かせて終曲。ピーター・フィリップスが振り返ると同時に 満場の大拍手。完璧とはいわないまでも、さすがといわざるを得ない出来だ。
●後半はまずゲレーロのモテトゥス2曲。大曲を終えたせいかリラックスした雰囲気で 演奏された。ステージが近いので各奏者の様子がつぶさに観察できたのだが、 身体が揺れる人、ビクともしない人、足の開き方、楽譜の持ち方、指揮者をみる 割合、それぞれみんな違う。演奏スタイルは完全に各人に任されているといった 感じだ。前席のメリットが感じられたのはモラレスの8声のモテトゥス 「キリストのしもべアンドレア」のとき。各パート一人で、いつもとは一味違う TSを見れた。最後のヴィクトリア「5旬祭の日が来たりし時」が終った時には再び われんばかりの拍手。 アンコールにはアロンソ・ロボ「わがハープは悲しみの音に変わり」と ビクトリアの師匠パレストリーナの「うるわしき救い主のみ母」が演奏された。
●3つのプログラム(スペインの他は「イギリスの音楽」と「イタリアとフランドルの 音楽」)全てを聴いた人の話によると、この28日の演奏が一番良かった とのこと。どうやらTSの公演に関しては私はいつもいい日が当たるようだ。 彼らといえど常に最高のコンディションで演奏できるとは限らない。 日本全国をほとんど休みなしでまわらなくてはならない彼ら、本当にお疲れ様 である。日本ではビクトリアのレクイエムの人気が高いらしく、それを反映して 全7公演中4つが「スペインの音楽」。各地で多くの人がこの曲を堪能したことだろう。 この日は最終日とあってか、ホールの外でフランシス・スティールらが サインの求めに気軽に応じていた。 今日の演奏を聴いて、ビクトリアのレクイエムを歌わせて彼らの右に出る団体は そう現れるものではないと再確認した…と、その帰り、 来がけに石丸電気秋葉原3号店でゲットした、テノールの フィリップ・ケイヴ指揮マニフィカトによるレクイエムを聴く。これまた ひとつの名演奏。これについては後日CDコーナーで。 タリス・スコラーズの次期来日は18ヵ月後の99年1月。
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【追記】
6月22日(日)京都府立府民ホール"アルティ"にて行われた同一プログラムを 私とほぼ同じ席(前から2列目の真中)で鑑賞された方による レビューがありました。(97/07/22)

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Last Modified: 2008/Jun/10 00:11:06 JST
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