003 山高きゆえに貴っとからず
昭和山岳会で修行していた頃、先輩から「山高きがゆえに貴っとからず、山トンガリをもって貴っとしとす」と教えられた。おかげで谷川連峰の赤谷川本谷や南アルプスの赤石沢北沢を溯行することができたし、一ノ倉沢や滝谷で岩登りを楽しむこともできた。
しかし、中高年登山会へトラバーユした現在、「山トンガリ」は卒業、「山低くても貴っとしとす」をモットーとしている。もちろん、日本百名山には毎年これでもかというくらいに登っている。百名山はいずれおとらず、登り甲斐のある山だ。だからといって、百名山を追いかけるだけじゃ、ちょっと違うんじゃないかと思ってしまう。
山好きを自認するのであれば、どんなに低い山でもその山に個性を見つけ出して魅力ある山として欲しい。
6月5日、白神山地に登ってきた。この山の魅力については多くの人が語っているから、ここに紹介するまでもないだろう。翌6月、帰りがけの駄賃に登った七座山(ななくらやま)が面白かった。標高287m。
現地に前泊して白神岳に登り、下山してもう一泊、翌日まっすぐ帰京してはもったいないので、近くに軽く登れる山はないかなと『白神山地の山々』(石井光造著、白山書房刊)をパラパラめくっていたら、目にとまったのが七座山、「小さな山のミニ縦走」という惹句(じゃっく--人をひきつける文句のこと)もきまっていた。
最寄りの駅はJR奥羽本線二ッ井駅、10分ほどバスに乗り天神小前下車、徒歩10分で登山口とガイドされていたが、我々は白神だけでお世話になった森山荘の車で登山口まで送ってもらった(有料)。白神岳に登るなら森山荘はお薦め。登山口まで送迎(無料)してくれる。
登山口から左上するように山道を登ってゆくと、太い秋田杉の深い森になる。主稜上に出て急な斜面をひと登りすると主峰の権現座、北へ烏帽子座、箕座、三本杉座、柴座、大座、松座とピークが連なり、山は低いが小気味よく縦走してゆく。東側は岩場となっているところから座(くら)という名が付けられたようだ。岩場は「倉(一ノ倉)」であり、「くら(俎ぐら)」なのである。
松座からアスファルト道路へ下り、登山口に戻ってタクシーで二ッ井駅に運んでもらった。七座山は個性あふれる名峰であった。
7月12日に広島で山と渓谷社主催、救心製薬後援の『岩崎元郎の健康登山講座』が開催された。翌日、スタッフと別れて広島駅前の牛田山を山崎 孝・博子ご夫妻のご案で登ってきた。標高200m台、こちらも七座山に劣らぬ味のある名山であった。200m級の山に登るには暑すぎる日ではあったが、下山して飲んだビールは格別においしかった。