ビタミンで喘息がよくなるなら・・・、あわてずに最後まで読んでください
ビタミンCといえば、レモンなどの柑橘類に多く含まれているあれです。化学名をアスコルビン酸といいます。最近では、ジュースや烏龍茶などに酸化防止剤としてよく使われています。一時期、大量にのめばかぜに効果があるとして、もてはやされましたね。
ビタミンCがひどく不足すると、毛細血管の壁がもろくなってしまう病気を起こします。ほんの少量のビタミンがあれば十分なので、現在ではこうした病気はまずみられません。また、ビタミンCはとり過ぎたとしても、体内に蓄積することなく、尿といっしょに捨てられてしまいますので、飲みすぎによる重い副作用もまず、ありません。
こんなビタミンCが喘息の薬になれば・・・、本気でそう考えた人は1人ではなかったみたいですよ。
1960年代には、すでに動物実験でアスコルビン酸の効果が確認され始めました。気管支の平滑筋に直接作用してヒスタミンやメサコリンといった刺激物質に対する過敏性を抑えることがわかったのです。
これを喘息のくすりとして使えば、気管支の過敏性を抑えて発作を起こしにくくする、つまりは予防薬として使えるのでは?期待はたかまります。どうやら、効果がありそうということになれば、次はどんなしくみで効き目が現れているのかが気になります。
β2刺激薬(気管支拡張薬)の効果を抑えるβブロッカーという薬を使っても、ビタミンCの効果は抑えられません。いろいろ試してみたところ、鎮痛薬としてつかわれるインドメタシンという薬をあらかじめ飲んでおくと、ビタミンCの予防効果は消えてしまうことが解りました。
一方、インドメタシンの効果のメカニズムは、すでにわかっています。痛みや炎症の刺激となるプロスタグランジン(PGと略す)が体内で作られるのを邪魔するのです。するとビタミンCの効果はプロスタグランジンと関係しているので、インドメタシンを使うとその効果がなくなってしまう、こう考えると、うまく説明がつきそうです。
でも、プロスタグランジンは痛みや炎症を起こし、気道にも刺激物として働くはずなのにどうして、気管支の過敏性を抑えるのでしょう?じつはプロスタグランジンにはいくつか種類があり気道を刺激して気管支を収縮させるPGF2の他に、気管支を拡張させるPGE2などがあったのです。ビタミンCを大量にのむとPGのバランスに変化がおきて善玉のプロスタグランジンが増えることが実験でも確認されました。
これだけ、わかればあとは薬として使うだけ?でも、ちょっと待ってください。こうした研究はすでに30年も前から行われているのに、いまだに喘息患者はビタミン剤をのめとか、レモンがいいだとか、そんな話はどこにもありません。
実際に、人に大量にビタミンCを飲ませる実験では、効果があったり、なかったりでなかなかはっきりした発作の予防効果が確認できないのです。効果のメカニズムまで解っているのに、なぜきかないのでしょう??作用が弱いなら量をふやせばいいのですが・・・。
問題は効果の要となるプロスタグランジンにあるようです。喘息のメカニズムが解ってくると気管支の収縮を刺激しているのはPGだけではなく、様々な物質により複雑な調節がされていることがわかってきました。どうやら、多くの喘息患者にとってPGはそれほど重要な調節の役割はしていないようです。
うーん。残念。レモンやビタミン薬で喘息をなおすには、もっともっと詳しく喘息のメカニズムが解明されるまで待たなくてはいけないようです。柑橘類が大好きな私にとっても、ほんとに残念。
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参考文献
Jean-Luc Malo,MD et al:Lack of acute effects of ascorbic acid on spirometry and airway responsiveness to histamine in subjects with asthma.J ALLERGY CLIN IMMUNOL 78:1153-8,1986
Rebecca J et al:A prospective study of diet and adult-onset asthma.Am J Respir Crit Care Med 151:1401-8,1995
Catherine A. et al:Nutrition and asthma.ARCH INTERN MED 157:23-34,1997
Vahid Mohsenin et al:Effect of ascorbic acid on response to methacholine challenge in asthmatic subjects.AM REV RESPIR DIS 127:143-47,1983
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