週末2日間をかけての山を考えましたが、天気予報が思わしくなく、比較的影響の度合いが少なそうな西上州に行程を考え出しました。一度泊まってみたかった万場を中心に、まず第一日目は、秩父坂本から志賀坂峠を越え、上州に入るルートをとり、街道だけでなく、途中2つの山に遊ぶ旅としました。
午前中が雨の予想で、家を出た時もしっかりした雨が降っていました。西武線の吾野を越えたあたりから、ついに雨は雪へと変わり、秩父が近づくにつれ車窓は白い世界へと変わってしまいました。覚悟をしていたこととはいえ、なんとか止んでくれないかという心境でしたが、小鹿野に向かう途中で幸い雪は止み、小鹿野で乗換えた乗客2名の小鹿野町営バスは、曇り空の中を坂本の集落に到着しました。
今回のルートを選ぶきっかけとなったのは、最近読んだ「池内紀編 福澤一郎の秩父山塊」が影響しています。秩父山塊といってもこの本の主要部分は、いわゆる奥秩父主脈ではなく、奥武蔵から両神山そして西上州の山々がその主役になっています。その中で、志賀坂峠を越えての間物や明家といった集落の描写が印象に残っていたのでした。
今回選んだルートは、古いエアリアマップから見出したものです。最新の情報はネットである程度探しました。実際、比較的ヒットが少なかったのですが、車利用の登山が主流で、こういう旅スタイルのハイキングは少数派なのかも知れません。
坂本の集落から国道に出て、道を渡ったところで階段を下りると両神山への道標があります。迂回する国道をショートカットするためのもので、小さな流れを渡りましたが、降り積もった雪で踏み跡がわからず、いきなり藪に突入。落ちてくる雪で早くもかなり濡れてしまいました。なんとか適当に藪の斜面を上がって再び国道に出会い、少し歩いてから両神山の登山口に入ります。少し進んだ所の水道施設の先を後ろに回りこみ、砂に埋まった堰堤の上で河原沢川を渡り、右手正面の小沢に入ると椎茸のほだ木を置いてあるところから志賀坂峠への道が始まりました。道標の類は全くありませんが、かつての旧街道の立派な道で、幅は広いところで2mくらい。但し、所々に多少崩壊があったり、倒木があったりします。道はすっかり雪で覆われていますが、往時の主要な街道のひとつで歩きやすく、旅人の気分で登っていきました。
途中で国道を再び横切ると、切り通しの階段を登って旧街道に戻り、明るい伐採地の中をつづら折りに行くようになります。視界があればいいのですが、残念ながら展望はガスに閉ざされています。やがて尾根から離れ、植林地の斜面を直線的に進むようになると、まもなく志賀坂峠に出ました。ここでも道標はありませんでした。志賀坂峠から左に折れ、諏訪山への道に入ると間もなく階段の登りになりますが、ここでこれからの登りに備え休憩としました。
諏訪山への登りは、まず雪に埋まった階段を登り、さらにもう一回今度はかなり長い階段を登りました。鉄塔のある辺りで、谷コースと尾根コースに分かれますが、ここは尾根コースに向かいます。急なやせ尾根で時々滑ってしまうので、木につかまりながらの登りが続きました。雪は止んでいるものの、薄暗い天気で雰囲気は良くありませんでした。何より時々木の上から落ちてくる雪に悩まされました。
やがて、谷コースからの道が合流してくると、道が急に良くなりました。道幅1メートルくらいの歩きやすい道を少し登ると、回りこむような尾根になり、正面に諏訪山の山頂部が見えてきます。山頂直下の分岐まで来れば僅かの登りで山頂でした。
山頂は実に両神山の展望台でした。まさに正面に大きく、墨絵の世界となっています。低いところに雲があるところは、雲海と水墨画という風情です。雪の付いた岩山は厳しい表情を見せていますが、また美しい景色でもあり、両神山にはよく似合う風情でもありました。
山頂を横切って反対に降りる道もありましたが、どこに降りるか自信がないので元の道を再び分岐に戻りました。分岐から少し回り込んだところに、もう一つの道も降りてきていました。下山は、沢沿いに間物へと下る道をとります。雪道の下りで少し心配しましたが、道は良く杞憂で、つづら折りの雪の柔らかい道を快調に下っていきます。このあたりは大変楽しい下りでした。途中足元から急に飛び立つヤマドリに驚かされましたが、驚いたのはあちらの方かもしれません。長い尾が優雅に波打っていました。道も下の方まで降りると雪も薄くなり、かつ狭く急傾斜となって、ちょっと苦労することになりました。最後に堰堤の上で橋を渡り林道に出ると、後は雪の積もった道を少し歩いて、再び国道に戻りました。そこは、ちょうど間物の集落の始まるあたりでした。
国道に降り立って、間物の集落を見ながらそのまま下っていきました。このあたりは通る車も少ない、静かな山村です。春であれば桃源郷という形容も当てはまるのでしょうが、雪の降った暗い午後は、畑に白いものが残り、寂しい風景を見せていました。ここから目的地の神流川流域に出るまでは、最悪国道をそのまま歩いても到達できますが、それでは面白くないので、再び山道へと入り、明家から立処山への道へと入ります。集落の終わるころ、明家の道標があり、これからの行程に備えて休憩しました。
〜立処山に続く〜
本文中の写真
志賀坂峠への街道での石仏
雪に埋まった登山道を行く
谷コースと合流して現れた山頂部
山頂から見る両神の尾根