水晶岳 赤牛岳

 水晶岳(黒岳)2,986m 赤牛岳 2,864m
山域:北アルプス
2000.08.06〜08.10



この山行の後半のメインは赤牛岳と読売新道である。奥まった所にあって長い尾根なのでなかなか行きにくく、今回前半飛ばしたのも最後にここを歩こうと思ったからこそである。そして、今までの行程からも良く目立っていた赤い山肌の赤牛岳と、対照的な水晶岳(黒岳)を辿る楽しみな一日であった。

水晶岳(黒岳)

夜明け前に水晶小屋を出発するつもりが、ちょうど野口五郎岳のほうから日が出始めたので、朝日に輝く槍を見てからということで、しばらくは小屋の前に居座った。この小屋はそういった意味では最高のロケーションにある。夜明けの神々しい光を眺める時間は、何度経験しても素晴らしい一時だ。
今日は再び2人での行程である。水晶岳への道へ入ると、これまでの3日間と同様、たくさんの花が迎えてくれた。前方に聳える水晶岳の岩峰は朝日に照らされて輝いており、ゴツゴツとした男性的な雰囲気を漂わせている。いくつかの岩峰を巻いて過ぎていき、最後の岩峰を登り切って、標識の立つ山頂に到着した。今回4つ目の百名山であった。
水晶岳の山頂に立つと、さすがに黒部を囲む山々の真ん中に位置する山だけあって、周囲の山々の大展望が広がる。立山から薬師、黒部五郎と今回辿ってきた山々に、これから行く赤牛と、すべてが一望のもとにある。野口五郎・烏帽子から後立山・白馬方面もずらりと山々が連なっている。ここは北アルプスを俯瞰するには絶好の場所であって、なかなか立ち去りがたい山頂であった。
水晶岳からの下りは、しばらくは黒い岩塊の道が続く。いくつか岩峰を巻くように登降していくと、二重山稜のような地形があり、真ん中が雪田になっていた。黒かった岩に、突然赤い岩が入ってくるようになる。だんだん赤牛岳の領域に移り変わりつつあるのだ。目先のちょっと大きなピークに登り詰めれば、2904峰で、少し下ったところに温泉沢の頭の標識があり、高天原への道が分かれていた。あまり道は良くないようだが、これを使うと行程のバリエーションも広がりそうであった。

赤牛岳

高天原への分岐からは比較的穏やかな稜線漫歩が続く。ピークは概ね巻いていき、赤茶けた土の上をゆっくり進む。しかし残念ながらあたりはガスがかかってしまい、展望がないのがちょっともったいない。2742m地点の先の最低鞍部で小休止したが、日が照らず肌寒いくらいであった。
2803mへの登りは、大きな岩のゴロゴロした中を行き、ピークの右から平坦な巻き道にはいる。ここを越えると、目指す赤牛岳の山頂が正面に現れ、なんと再びガスが晴れてきた。赤茶けた道がずっと続く中を、先行するパーティーが歩いている。最後のゆったりとした登りを楽しみながらいくと、前を行く2人に追いつき、同時に赤牛岳山頂着。早く到着していた1人を加えて、この朝5人が山頂に立った。
すでに晴れてきている山頂は申し分ない展望である。薬師と烏帽子がそれぞれ反対側に対峙している奥山であり、眼下にはこれから下っていく、黒部湖が青々としていた。人が少なく、秘峰というイメージがあったが、意外に明るいあっけらかんとした山頂で、5人はあまり人の訪ねない奥山に登った感激にお互いに写真をとり合った。登ったという達成感のある山頂であった。

山頂の5人のうち2人は水晶からの往復とのことで水晶小屋に引き返し、読売新道を3人で下山することとなった。最初は崩れやすい急坂を下ると、しばらくは森林限界上の明るい尾根が続く。要所要所に肩状の広場が現れ、一休みしながら下って行く。眼下に森林を見て、もうすぐこの眺めも終わりか..と思いながらの道である。振り返ると、赤牛岳山頂は再び重くガスに覆われてしまい、まさに絶好の時に山頂にいたようであった。
森林限界から下に降りてしまうと、歩きにくい道に変わる。最初は低木が多く、草木がかぶり、道が掘れたりどろどろだったりする。この泥道は単調で長く続くな..と思って、それぞれ持っているエアリアを比べてみてびっくり。私のは奥黒部ヒュッテまで3時間。もう一つのは4時間半。長い方が新しく、途中2時間50分地点で鎖場と書いてある。すでに2時間以上は経過しているのに、鎖場が出てこないところを見ると、長い方のコースタイムがどうやら正しいようだ。
やがて大きな木がたくさんある針葉樹林帯に入ると、比較的道も歩きやすくなる。やっと鎖場を通過し、さらにどんどん下れば沢音が少しづつ近づいてくる。左右に見え隠れする沢が合流るところが奥黒部ヒュッテのはずだ。樹林の中の淡々した下りを行くと、雷鳴ともに雨が落ちてきたが、すでに樹林帯の中にいたためが、それほど雨に打たれずに済んだのは幸いだった。そして、ようやく道が平坦になったかと思うと、奥黒部ヒュッテの前の広場に飛び出した。
ヒュッテで平ノ渡しの時間を確認し、少し休んで平ノ小屋への道を辿る。東沢にかかる木橋を渡り、湖岸の道に入ると、しばらくは歩き易い平坦な道が続くが、やがて道は山裾を巡る狭い道となり、崩壊箇所を梯子で上り下りするようになった。ここまで長く歩いてきた足にはなかなか辛いところである。
後半に入る大きな梯子も無くなり、ひたすら湖岸を行く。湖を走り去って行くボートに、乗せてくれと言いたいところである。やっと渡し場の階段までついたのが15時半。船まではまだ時間は2時間ある。湖岸で濡れた物を干したり、湯を沸かしたりしていると、残念ながら雨が降り始め、すべてしまい込むこととなった。できるだけ雨の当たらないところで過ごしていると、17時近くなって釣り人が4人ほど降りてきた。
船は時間通りにやってきて対岸まで我々を運び、最後は小屋まで長い階段を登り、ようやく荷を解いた。小屋にはありがたいことに風呂もあって、4日間の汗を流すことができた。そして、山小屋とはいえ麓に近いゆったりした小屋の部屋で、我々はこれまでの同行に感謝し、住所を交換しあった。この夜はもう麓まで降りたという安心もあってか、朝までぐっすりと熟睡することができた。

長かった山旅もついに山行も最終日となり、後は歩くのを楽しむだけである。昨日に引き続き、黒部湖岸の道はアップダウンもあるが、ダムまで3時間半。最後に残された手頃なコースタイムである。
最終日も、やはり夜明けとともに小屋を出発する。道は一旦中ノ谷に大きく切れ込みまた再び戻ってくる。このあたりに一ヶ所果てしないような長い梯子があった。再び湖岸に沿った水平な道にはいると、随分とブナの木が多くなる。きっと秋の紅葉の時は見事であろう。そして少しづつ高度を上げ気味にすすみ、ハシゴも無くなって快適な道になる。道中いろんな山々の話題を出しながら歩いていったのもこのあたりであった。
御山谷に再び大きく切れ込み、谷の奥で最後の休憩とする。もう終点まではわずかで、このあたりから朝のトロリーバスで来た人たちとすれ違うようになった。御山谷を回り込み終わると、ロッジくろよんの直下を通り、舗装路となる。平坦な道を淡々と進むと崩壊地の吊り橋を経て遊覧船乗り場へ。ちょうど最初の遊覧船が出るところで、観光客でにぎわっていた。最後はヒンヤリしたトンネルに入り、ケーブルカー乗り場の前で感激の一周完成。ここは4日前に一ノ越に登る人を見送ったところで感慨深く、室堂からの同行者の差し出した手をしっかり握りかえしたことであった。そして、黒部ダムの真ん中に立ち、山頂にガスがかかる赤牛を眺めていたが、バスの時間が近づいたころ、赤牛岳は最後に一瞬頂上を見せてくれのであった。

扇沢からはバスでおきまりの薬師の湯にたちより、ゆっくりと汗を流したあと大町からスーパーあずさに乗った。来るときは名古屋からだが、今日は東京まで帰る。3人で山や旅行の話がつきないまま東京に着き、それぞれの自宅の方へと散っていった。単独で気ままに行くのが好きな人たちなので、またそれぞれ、思い思いの山に出かけることになるだろう。その時またどこかで偶然出会うことがあるかもしれない。同行者に恵まれるとは、まさにこういうものかとも思った山行であった。

本文中の写真(順に)

  • 水晶小屋からの夜明け
  • 水晶岳からの赤牛〜立山への展望
  • 赤牛岳全景
  • 黒部ダムから眺める赤牛岳

    1.室堂〜五色ヶ原〜越中沢岳〜スゴ乗越
    2.スゴ乗越〜薬師岳〜太郎兵衛平
    3.太郎兵衛平〜黒部五郎岳〜黒部五郎小舎
    4.黒部五郎小舎〜三俣蓮華岳〜鷲羽岳〜水晶小屋

    記録

    日 程

    2000年8月9日(水)〜10日(木)

    天 候

    9日 曇り時々晴れ一時雨
    10日 曇り時々晴れ

    コース

    9日 0510 水晶小屋 → 0540/55 水晶岳 → 0647 温泉沢ノ頭 → 0825/0900 赤牛岳 → 1300/10 奥黒部ヒュッテ → 1530 渡し場 → 1720に乗船 → 平ノ小屋
    10日 0515 平ノ小屋 → 0750/0805 御山谷 → 0905 黒部ダム

    夜明けの水晶岳


    参考図書・地図 その他のコース
    アルペンガイド 上高地・槍・穂高
    エアリアマップ 立山・剣
    エアリアマップ 鹿島槍・黒部湖
    25000図 薬師岳・烏帽子岳・黒部湖
    50000図 槍ヶ岳・立山
    水晶小屋までは、
    新穂高温泉から双六岳を経て三俣蓮華岳に達することができる。
    大糸線方面からは、裏銀座ルートあるいは竹村新道経由での縦走となる。
    バス
    平ノ渡しは、1日4便(夏期5便)。午後は、14時20分(夏期のみ)・17時20分
    新穂高温泉へのバスは、濃飛乗合自動車松本電鉄のホームページをご参照下さい。
    七倉へは現在はバスが無く、タクシー利用となります。
    黒部湖へは、夏期のハイシーズンは、大町発5時15分。扇沢6時半発。通常その1時間後となる。
    詳細は、立山黒部貫光(株)のホームページを参照下さい。