黒部五郎岳

 北ノ俣岳 2,661m 赤木岳 2,622m
 黒部五郎岳 2,840m

山域:北アルプス
2000.08.06〜08.10



黒部五郎岳は北アルプスの中でも黒部源流にあり、最も奥まったあたりにある。南から遠望すれば笠が目立ちすぎるので、その後ろにあって周囲の山にとけ込み、あまり目立たないという印象があった。今回の第一目標の薬師を越え、あとは赤牛まで足を延ばすにあたり是非2日中に越えたいと、11時前に雨の太郎平小屋を出発した。

太郎平小屋のベンチに座ると、さっそく雨具を付け始めた。ここで雨具を付けるということは、黒部五郎岳まで行くことに決めたということである。準備を整えさっそく雨の中を北ノ俣岳に向かう。太郎山の緩やかな稜線を歩き、広々とした道を行くが、この道はかなり水で掘れてしまっているところもある。雨はだんだん強くなり、道の上を流れる道も勢いを増してきた。時折聞こえる雷の音は、どうも近くに雷雲があることを窺わせる。草木の少ない平原状の道は雷が来ると気分が悪いが、さりとて引き返すわけにもいかず、水がまさに濁流のように流れる道を行く。雨はバケツをひっくりかえしたように激しく打ち付けてきた。
突然稲妻とともに雷鳴があたりに響き渡った。ちょうど背の高いハイマツのあたりだったので、急いでその中に潜り込んだ。前進も退却もできない状況で、しばらくはじっとしている他は無い。長期戦になるならツェルトでも出したものかと思っていると、幸い雷は2発ほどで雨の勢いも弱くなり、峠は越したような感じである。そうであればとハイマツから這い出して再び北ノ俣岳の方向に向かって行った。
少し傾斜が強くなり、道幅が狭くなったところを進むと、北ノ俣岳の頂上部の稜線に飛び出す。緩やかな道が山頂まで長く続いていて、なるほどここは素晴らしく伸びやかな尾根であった。雨は小やみになっており、この様な天気にもかかわらず、ガスが無く雲が高いので、薬師岳や源流の山々も一望できる。花の多い稜線を山頂に向かっていくと幾人かとすれ違う。神岡新道の分岐から少しで北ノ俣岳の山頂に着くと、若い単独の女性が1人休んでいた。テントで新穂高から剣まで行く途中ということらしい。そういう山行を見習いたいとは思っているのだが....
ここまで来ると、前方にデンと居座る黒部五郎岳の登りが気になってくる。しかし、その麓までいかないと登る権利は与えられない。まだまだそこまでは長い。緩やかな起伏ののんびりした尾根を歩いていくと、途中で赤木沢を登ってきたパーティーとすれ違う。赤木岳は山頂の少し横を通る様になっており、標識のあるところで休憩して、次は中俣乗越を目指す。このあたりで一瞬薄日が射して暖かくなった。ここからは細かなアップダウンがあり、あまり下ってくれなくてもいいよ....と思うところだが、容赦なく道は高度を下げて中俣乗越に着いた。黒部五郎岳への登りに取り付くには、さらに小さなコブをもう一つ越えねばならない。再びガスがあたりに湧き始め、しばらく全貌を見せていた黒部五郎岳も、ついにガスに覆われるようになった。コブの通過は、登っただけ下るような部分で気分的につらい。緩やかにピークの少し北側を通って下ったところで、やっと黒部五郎岳への取り付きとなり、登りに備えて小休止した。
黒部五郎岳への登りは標高差は350m程度だが、スゴ乗越から歩き続けた足には厳しい。小さくジグザグを繰り返す、開放的な一本調子な登りが、登り易そうなのが救いである。鞍部から少し登って、一旦平坦になったあと、平均的に高度を上げていく。疲れたとかきついとかいう気持ちさえ克服すれば、体はついてくるだろうと登っていると、なんと体の方が途中で反乱を起こした。斜面の中腹あたりで足を止めた時、右足に痛みを感じ、踏ん張りが効かなくなった。これからの行程に気分的に影がさしてくるが、今日はここでやめる訳にはいかず、同行している方にスプレーをもらってまた登り続ける。どうも力のかけ方によって、痛んだり大丈夫だったりするようで、部分的な筋肉痛のようだ。だましだまし登って、最後はトラバース状にハイマツを横切って黒部五郎岳の肩に到着。残念ながら、ここで完全にガスの中に入ってしまった。
同行者は稜線ルートをとるとのこと、私は寒そうなのでカールを下ることにする。ガスで何も見えない山頂を往復したあと、カールの縁を少し辿って、カールの中へと急降下していく。このあたりで黒部五郎小舎が意外と近く見える。カールの底から見た黒部五郎岳は、北ノ俣岳の方から見た姿とは全く別の山のようだった。荒々しくもあり、また美しいお花畑のカールを持った山だ。次の日のこととなるが、三俣蓮華岳の方から振り返ると、端正な三角形に形のいいカールをもった絵に描いたようなきれいな山だった。
さてカールの底はお花畑と、湿地状のところを歩いて行くが、ここはよく足がもぐり、泥んこになってしまう。水の流れに沿ってカールの下部を横切り、樹林帯へと入っていくと、久しぶりの北アルプスの原生林の雰囲気で、懐かしい気がした。しかしそんな悠長なことを言っていたのもつかの間で、踏ん張りの効かない右足は下りの方がよく痛み、またカールの底から小舎が近いと思ったのは錯覚で、実は小舎までは相当の距離があった。樹林帯へ出たり入ったりを繰り返したり、沢を横切るためにアップダウンを繰り返したりして、ほとほと歩くのが厭になってきた。最後はなんとなくフラフラと惰性で歩き、やっと鞍部に降りたって、ヨレヨレで小舎着。部屋は割り振った後なので、物置として使われている部屋を使うことになったが、広くて布団も毛布も使い放題だった。食事を済ませて談話室でくつろいでいると、いつのまにか曇もだいぶん消えてしまい、夕日が笠ヶ岳を照らすのが見えた。そこには2本の虹がかかっていた。明日も天気はまずまずのようだ。

本文中の写真(順に)

  • 北ノ俣岳の穏やかな稜線
  • これから目指す黒部五郎岳の尾根

    1.室堂〜五色ヶ原〜越中沢岳〜スゴ乗越
    2.スゴ乗越〜薬師岳〜太郎兵衛平
    4.黒部五郎小舎〜三俣蓮華岳〜鷲羽岳〜水晶小屋
    5.水晶小屋〜水晶岳〜赤牛岳〜黒部ダム

    記録

    日 程

    2000年8月7日(月)

    天 候

    晴れのち雨

    コース

    1050 太郎平小屋 → 1240/50 北ノ俣岳 → 1315/25 赤木岳 → 1400 中俣乗越 → 1540 黒部五郎岳の肩 → 1557 黒部五郎岳 → 1607 肩 → 1735 黒部五郎小舎

    三俣蓮華岳への登りから振り返る黒部五郎岳


    参考図書・地図 その他のコース
    アルペンガイド 北アルプス
    アルペンガイド 上高地・槍・穂高
    エアリアマップ 立山・剣
    25000図 薬師岳・三俣蓮華岳
    50000図 槍ヶ岳
    北ノ俣岳へは、神岡(打保)から神岡新道で登ることができる。
    黒部五郎岳へは、新穂高温泉から双六を経て、あるいは裏銀座・槍からなど、いろいろな縦走が考えられる。
    バス
    夏期のみ富山より折立までバスが運行される
    新穂高温泉へのバスは、濃飛乗合自動車松本電鉄のホームページをご参照下さい。