作品名※カッコ内は票数 | 著者 出版社 |
1 ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎(29) | アントニイ・バークリー 晶文社 |
2 魔法人形 (27) | マックス・アフォード 国書刊行会 |
3 半身 (21) | サラ・ウォーターズ 東京創元社 |
4 死が招く (18) | ポール・アルテ 早川書房 |
5 歌うダイヤモンド (15) | ヘレン・マクロイ 晶文社 |
6 捕虜収容所の死 (13) | マイケル・ギルバート 東京創元社 |
スモールボーン氏は不在 (13) | マイケル・ギルバート 小学館 |
8 塩沢地の霧 (10) | ヘンリー・ウェイド 国書刊行会 |
9 暗黒大陸の悪霊 (8) | マイケル・スレイド 文藝春秋 |
10 闇に問いかける男 (7) | トマス・H・クック 文藝春秋 |
「死のように静かな冬」「魔性の馬」「石の猿」「シティオブボーンズ」「女神の島の死」「幻影」「ヴェネツィア殺人事件」「死者との対話」「雷鳴の夜」「終止符」「パズルレディと赤いニシン」「探偵術教えます」「黒猫は殺人を見ていた」「青い虚空」 |
1位●ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎
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G「というわけで、海外勢は今年も古典本格が中心で、やっぱりバークリー強し!
という感じでしたね」
B「バークリー作品もじゃかすか邦訳が進んだからなあ。前述の通り今回の『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』は、この作家の作品としては中の下くらいの出来だろう。他の古典本格系も総じて小粒だったり、非本格との境界線上の作品だったりするし――晶文社の新叢書のラインナップなどを鑑みるに、やはりこの古典ブームも本格ジャンルについてはそろそろ弾切れなのかもね」 G「でも、『ミステリ作家事典〈本格派篇〉』や『ある中毒患者の告白』(by M.K.氏/300部限定の私家版で出た、未訳本中心の古典本格ミステリガイド)などを拝見すると、まだ見ぬ本格ミステリ作家は山のようにいらっしゃるじゃありませんか」 B「そりゃまあその通りなんだけど……実際に国書の世界探偵小説全集あたりから出てみると、やっぱ“期待していたほどではない”ケースが増えている気がするね。むろんそれでも――というか、それだからこそマニアは喜ぶわけだけど、ビジネス的な見地からすれば、本格メインというわけにはいかなくなってきた感じだ」 G「いわゆる“奇妙な味”の短編作家がどんどこ訳されたりして、それはそれで楽しいですけどね」 B「しかしまあ、今年度はランクインしたものにもギルバート作品が2つ入っているし、ランク外にはジョゼフィン・テイ作品もある。また、票は入らなかったけど、ポケミスの復刻ものやクリスティ文庫なんてのも始まった。古典本格再評価の流れは、けっこうきっちり根付いたといえるのかも。逆に現代作家のそれは、相変わらずお寒いかぎりだけどね」 G「今回のランク入り作品でいうと、驚異の新人サラ・ウォーターズさんにご存じアルテさん、そして掟破りのスレイドさんにクックさん。――いちおう4人いらっしゃいますが、純粋に本格ミステリ書きといえるのは、やはりアルテさんくらいでしょうか(ギルバートさんも現役ではありますが90歳を超えてらっしゃいますから……)」 B「そうだろうね。本格ミステリという形式を意識しているのは、アルテさんと、強いていえばスレイドさんくらい。他の方はあくまで“たまたま本格としても読める”ミステリを書いたということだろうな。まあ、それはそれで仕方がない。毎回いってることだけど、ジャンルとしての本格がこれだけ強く意識されているのは、わが国に限った特異現象なのかもしれない」 G「そのあたり、どうなんでしょうね。海外のミステリ読みさんたちの実感値が知りたいなあ」 B「Junkの英語版でも作って国際交流を図ればいいじゃん(笑)」 G「……そんなスキルがぼくにあるとお思いですか?」 B「ぜんっぜん思わないけどね。いずれそういうサイトも登場するかもしれない。新しくミステリサイトを作るなら狙い目かも(笑)」 G「戯けたこといってないで、そろそろayaさんのベストを聞きましょう」 B「了解了解。国産篇どうよう順位無しのベスト5だよ」 |
スモールボーン氏は不在 | マイケル・ギルバート 小学館 |
ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 | アントニイ・バークリー 晶文社 |
死が招く | ポール・アルテ 早川書房 |
死者との対話 | レジナルド・ヒル 早川書房 |
魔法人形 | マックス・アフォード 国書刊行会 |
別格)半身 | サラ・ウォーターズ 東京創元社 |
G「うわー、渋いですねー。じっつに渋い。こりゃ初心者の人には簡単には勧められないベストだなー」
B「そんなこたぁない。ちゃんとアルテもいれてあるさ……が、まあ基本は英国系シブ目本格で固めてみた。というか、これ以上選ぶとどうしても非本格が入ってきちゃうのよね。非本格は『半身』だけあれば十分よ」 G「いいけど……ヒルの『死者との対話』なんて渋すぎでしょ。ぼくは2度くらい途中で挫折しましたよ〜。なんとか3度目で読みきったけど、正直辛かった(笑)」 B「まあ、本格としてのメインネタは邦訳ではちと辛いネタだし、全体に無駄に冗長だったりするけどさ、むしろそこがいいわけで(笑)。国産の新本格を読んでいると、こういうどっしり読み応えのある英国モノをじっくり読みたくなるんだよ」 G「なんだかな〜。じゃあぼくの方は、逆に読みやすさ優先の路線で攻めてみましょうかね」 |
1 死が招く | ポール・アルテ 早川書房 |
2 捕虜収容所の死 | マイケル・ギルバート 東京創元社 |
3 ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 | アントニイ・バークリー 晶文社 |
4 魔法人形 | マックス・アフォード 国書刊行会 |
5 暗黒大陸の悪霊 | マイケル・スレイド 文藝春秋 |
6 闇に問いかける男 | トマス・H・クック 文藝春秋 |
7 歌うダイヤモンド | ヘレン・マクロイ 晶文社 |
8 雷鳴の夜 | ロバート・F・ヒューリック 早川書房 |
9 パズルレディと赤いニシン | パーネル・ホール 早川書房 |
10 アイデンティティー | ジェームズ・マンゴールド |
B「あのな〜。映画を入れるなよ映画を!」
G「だって面白かったんだも〜ん! いいじゃないですか“別格”なんですから。ともかく新本格読みさんには、絶対外せない作品だと思いますよ」 B「じゃあ読みやすさ優先のベストっていってたけどさ、『暗黒大陸の悪霊』はむちゃくちゃ読み辛いだろーが!」 G「まあたしかに、あの作品はプロットがハンパでなく錯綜しまくってますけど、サイコスリラーの体裁は、今どきの若い方には馴染みやすいんじゃないですかね。よくわかりませんが、ともかくあの怒濤のどんでん返しは、これまた新本格読みさん必見かと」 B「ううむ、どうかなあ。壁本って気もするけどなあ。ついでにいえば8位9位あたりも本格ミステリとしてはユルユルの作品だ。員数合わせっぽい無理矢理なセレクトじゃないの?」 G「狄(ディー)判事シリーズ、好きなんですよ。むかし懐かしい探偵小説の匂いがいっぱいで。特にこの作品は“嵐の山荘もの”だし、なかなかトリッキーだし」 B「『パズルレディ』もそうだが、まぁ軽本格としちゃ悪くないけど……って感じでしょ」 G「海外の現代ミステリシーンにおける本格は、謎解き云々よりむしろ古典的な道具だてなど、“本格っぽいの雰囲気”の演出がメインであるような気がするんですね。実際、あちらではコージーミステリなどに代表される軽本格こそが、ジャンルとして確立されているわけですし。パズラーがどうということでなく、一種のノスタルジックな感傷を誘う“探偵小説の世界”が愛されているんじゃないでしょうか。本邦の本格読みからすれば食い足りないわけですが、それはそれとして、楽しめるものは楽しんだ方が得ですから(笑)」 B「やっぱキミの場合は、間口が広いというより節操がないってことだな!」 第2部・完(2004.2.29) |