南次二経


[木巨] (くざん)

●南次二経の首、[木巨]山という。西は流黄に臨み、北は諸[田比]を望み、東は長右を望む(皆山の名なり)。英水ここより出でて、西南に流れて赤水に注ぐ。其の中に白玉多く、丹粟多し。

 南山二の巻の首(はじめ。起点の意)。西側は流黄(りゅうこう)山に隣接しており、北側に諸[田比](しょひ)山、東側に長右山をのぞむ地点にあるとされています。
 英水(川の名)が西南へと流れ、赤水に合流しています。

植物:記載なし。
動物:狸力(りりき)[朱鳥](しゅ)
鉱物:丹粟(たんぞく。丹砂の細かい物)が多い。英水の中に白玉が多い。

字形参照:[木巨]、ク


長右山 (ちょうゆうざん)

●東南四百五十里、長右の山という。草木無く、水多し。

 [木巨]山から東南へ450里。草木は生えておらず、水(川など)が多い山です。

植物:存在せず。
動物:長右
鉱物:記載なし。


尭光山 (ぎょうこうざん)

●又東へ三百四十里、尭光の山という。其の陽に玉多く、其の陰に金多し。

 長右山から東へ340里。

植物:記載なし。
動物:滑カイ
鉱物:山の南側に玉が、北側に金(恐らく黄金)が多い。


羽山 (うざん)

●又東へ三百五十里、羽山という。其の下に水多く、其の上に雨多し。草木なく、蝮虫多し。

 尭光山から東へ350里。麓には水(川など)が、頂上には雨が多い山です。水が多すぎるためか草木は生えていません。

植物:存在せず。
動物:蝮虫(まむし。郭注ではトカゲとされている)が多い。
鉱物:記載なし。
伝説:鯀(コン)が死刑に処せられた山とされている。


瞿父山 (くほざん)

●又東へ三百七十里、瞿父の山という。草木無く、金玉多し。

 羽山から東へ370里。草木は生えておらず、金や玉が多い山です。

植物:存在せず。
動物:記載なし。
鉱物:金、玉が多い。


句餘山 (こうよざん)

●又東へ四百里、句餘山という。草木無く、金玉多し。

 瞿父山から東へ400里。草木は生えておらず、金や玉が多い山です。

植物:存在せず。
動物:記載なし。
鉱物:金、玉が多い。


浮玉山 (ふぎょくざん)

●又東へ五百里、浮玉の山という。北は具区に望み、東は諸[田比]を望む(具区、今の呉県西南の太湖也)。(中略)チョウ水其の陰より出でて、北流して具区に注ぐ。

 句餘山から東へ500里。北に具区(太湖。今でも蘇州市の西に広がっている有名な湖)を、東に諸[田比](しょひ)の水(川)をのぞむ山です。
 チョウ水(草かんむりに召)が山の北側から流れ出し、北へと流れて具区に合流しています。

植物:記載なし。
動物:テイ。水中に[此/魚]魚(せいぎょ)が多い。
鉱物:記載なし。

字形参照:チョウ


成山 (せいざん)

●又東へ五百里、成山という。四方にして三段。其の上に金玉多く、その下に青コ多し。タク水ここより出でて、南流して[虍/乎]勺に注ぐ。其の内に黄金多し。

 浮玉山から東へ500里。「四角形を三つ重ねたよう」とありますから、階段ピラミッド形の山であると考えられます。
 タク水(門がまえに豕)がこの山を源流として、南の[虍/乎]勺(こしゃく。川、または沢の名)に流れ込んでいます。

植物:記載なし。
動物:記載なし。
鉱物:頂上に金と玉が多く、麓に青く美しい石が多い。水中に黄金が多い。

字形参照:タク[虍/乎]、コ


会稽山 (かいけいざん)

●又東に五百里、会稽の山という。四方なり。(今、会稽郡山陰県の南に在り。上に禹冢及び井有り)其の上に金玉多く、其の下に[石夫]石多し。勺水ここより出で、南流してケツに注ぐ。

(ケツはさんずいに[目/犬]

 成山から東へ500里。現在の浙江省紹興市の南に実在しています。
 山すそが四角形の山で、勺水がここから出て、南へと流れてケツ(川の名)に流れ込んでいます。

植物:記載なし。
動物:記載なし。
鉱物:頂上に黄金や玉が、麓に[石夫]石(武夫石)が多い。
伝説:山頂に禹の塚と井戸がある。(禹がここで人生を終えたという、縁の地である)

字形参照:ケツ[石夫]、フ


夷山 (いざん)

●又東へ五百里、夷山という。草木無く、沙石多し。ケツ水ここより出て、南流して列塗に注ぐ。

(ケツはさんずいに[目/犬]。一説にはハイ、[シ貝]

 会稽山から東へ500里。草木は生えておらず、砂や石が多く見られる山です。ケツの川がここから流れ出し、南へ流れて列塗(れつと)に合流しています。
 (列塗については諸説ありますが、定かでは有りません。文脈から見て、川か湖の名と考えられます)

植物:存在せず。
動物:記載なし。
鉱物:砂、石が多い。

字形参照:ケツ[シ貝]、ハイ


僕勾山 (ぼくこうざん)

●又東へ五百里、僕勾の山という。其の上に金玉多く、其の下に草木多し。鳥獣無く、水も無し。

 夷山から東へ500里。一説では僕夕山、または僕多山とされています。動物は一切棲んでおらず、この山を流れている川もありません。

植物:麓に多い。
動物:存在せず。
鉱物:頂上に黄金、玉が多い。


咸陰山 (かんいんざん)

●又東へ五百里、咸陰の山という。草木無く、水も無し。

 僕勾山から東へ500里。草木も川もない、乾いた山のようです。

植物:存在せず。
動物:記載なし。
鉱物:記載なし。


洵山 (じゅんざん)

●又東へ四百里、洵山という。其の陽に金多く、其の陰に玉多し。(中略)洵水ここより出で、南流して于閼の澤に注ぐ。

 咸陰山から東へ400里。一説には旬山とも。洵水(川)がここから流れ出し、南へと流れて于閼(うあつ)の沢(湿地帯)に注ぎ込んでいます。

植物:記載なし。
動物:洵水の中に紫色の巻き貝が多い。[羊患](かん)
鉱物:山の南側に黄金が、北側に玉が多い。


[虍/乎]勺山 (こしゃくざん)

●又東へ四百里、[虍/乎]勺の山という。其の上に梓ゼン多く、其の下に荊杞多し。滂水ここより出で、東流して海に注ぐ。

 洵山から東へ400里。滂水(ぼうすい)がこの山から流れ出し、東へ流れて東海に注いでいます。

植物:山頂に梓(ここではザボンの意)とゼン(楠の木)が、麓に荊(いばら)と杞(クコ)が多い。
動物:記載なし。
鉱物:記載なし。

字形参照:[虍/乎]、コ


区呉山 (くござん)

●又東へ五百里、区呉の山という。草木無く、沙石多し。鹿水ここより出で、南流して滂水に注ぐ。

 [虍/乎]勺山から東へ500里。鹿水(ろくすい、川の名)がこの山から流れ出し、南へと流れて滂水(ぼうすい)に合流しています。

植物:存在せず。
動物:記載なし。
鉱物:砂、石が多い。


鹿呉山 (ろくござん)

●又東へ五百里、鹿呉の山という。上に草木無く、金石多し。澤更の水ここより出で、南流して滂水に注ぐ。

 区呉山から東へ500里。澤更(たくこう)の川がこの山から流れ出し、南へと流れて滂水(ぼうすい)に合流しています。

植物:山の上には存在せず。
動物:蠱雕(こちょう)
鉱物:(山の上に)黄金と石が多い。


漆呉山 (しつござん)

●東へ五百里、漆呉の山という。草木無し。博石多く、玉無し。東海に処り、丘山を望む。

 鹿呉山から東へ500里。南山に連なる山ですが、東海海上にあり、丘や山を望むことができる位置にあります。

植物:存在せず。
動物:記載なし。
鉱物:碁石に使う石(一説では、単に大きな石)が多い。
伝説:天空を旅する太陽がここに泊まるとされている。


●凡て南次二経の首、[木巨]山より漆呉山に至るまで、凡て十七山、七千二百里。其の神の状は皆、龍身鳥首。其の祠りには毛を用い、一璧を用いて埋め、ショに[禾余]米を用いる。

(ショは米偏に婿の旁部分。神をまつるための米の事。[禾余]の音はト。日本のもち米に当たるが、ここでの郭注では稲のノギとされている)

 以上、「南山二巻」に記されている山は全部で十七山。総里程は7200里で、いずれの山にも、それぞれ龍身鳥首(龍の体に鳥の頭)の姿の山神が奉られています。
 祭祀の方法としては、供え物として毛(けもの)と米をささげ、璧玉(へきぎょく)を地中に埋めるようにと記されています。

神々:龍身鳥首の神

字形参照:ショ[禾余]、ト


南山経首 ◇ 南次三経
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